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白いオーケストラ、再び vol.3

 

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***  白いオーケストラ、再び   ***

vol.3

 

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アイドレス混成部隊が展開する丘を見下ろして、樹上に簡易見張りスペースを設置すると、やしなとえるむはそこから周囲の警戒を始めた。サイボーグの望遠視覚機能を生かしての目視に、さらに各所に設置されたセンサーと、ネットから集めた情報の統合を行ってゆく。単独もしくは簡単な装備のみで、偵察行動が可能になる感覚の高さは、都築藩国バトルメードの得意技のひとつだった。
配置指示で徐々に秩序を取り戻しつつある部隊ではあったが、逆に司令部周辺は、早くものんびりムードが漂い始めているのが手に取るように分かる。やしなはそれを見やって肩をすくめると、地上で休憩に入っている班員に指示を出した。

「なつきちゃん、今のところ周囲に動きは無し。地上班は休憩継続でオッケーね。オペレート状況はどう?」
「<はい、良好です。各分遣隊の情報入ってきています。>」
「こう暇だと、間延びしちゃうな。BGM代わりに、適当に実況放送してくれる?」
「<了解でーす。何かさっき、ちょろっと不吉な言葉を聞いたような…。>」
「不吉?」
「<いえ、続報入ったらお知らせします。まずは自衛軍本部の状況が入ってくるところです。>」
「本部は、ほとんど戦場になっていなかった筈なんですが…。」
「例の指揮官不在のところね。」
「<情報来ました、嫌な予感的中です。エースキラー2機を発見。根源力50万以下死亡、対オーマ即死の瘴気を観測しています。>」
「エースキラーって、八本腕の奴だったわね。学習能力が確認されてる奴。」
「……そう、です。エースキラー…。」
「<攻撃目標は平穏号のもよう。死亡回避には遠距離攻撃が必要ですが、派遣部隊が対応出来ないため、現部隊は退避、他部隊の応援を要請中。あ、郊外から移動のようです。サイベリアンが2機、遠距離と白兵攻撃に入ります。>」
「はるさんがいらっしゃる隊ですよね。黄にして春のはるさん。」
「<はい、はるさんは死亡回避のために遠距離からですね。すごっ、合計103の評価が出ました!>」
「それだけ出たら、余裕かな。」
「<うわー、かっこいい。猫柔術家は無用の破壊はしない、ですって。山嵐にてエースキラー撃破!>」
「おお、猫先生ね。八本腕は足下が弱点だったな。あれはどうして、あんな不安定なスタイルなのかしら。地上戦を想定してないのか…。」
「平穏号は、無事ですか? 搭乗してたのは…。」
「<あ、工藤さんという人ですね。無事です、病院へ移動するようです。>」
「広島転送は、回避ですね。」
「うーん、その辺がいまいち混乱してるのよね。工藤さんて、広島でやばかった人のことでしょ。転送されなかったとすると…。」

「<次、病院からです。傘を被った謎のWDが大暴れ中。AR6で、ぽ、ぽち姫と佐藤という人が殺害されるとのこと。>」
「ぽち姫さまっ!? ARの状況は?」
「<えー、AR9が、あ、FEGの咆月ですね。新型WD対戦かあ。>」
「む、あのWDなら問題無さそうね。あれは精霊回路仕込んでるって噂だし。」
「…現在のこの世界で、精霊回路が完全に動作するのか、確認してみたい気もします、ね。」
「? そういえば、第5世界に、とてもよく似た世界なのか。あら?」
「<屋内戦なので近接、白兵のみのリクエストですが、問題なくクリアです。>」
「…ま、ぽち姫さまを無事守ってくれたなら、感謝しなくちゃね。」
「<あっ、ネコリス、ネコリスがいるんですってー。いいなー、うちの藩国にも遊びに来てくれないかなー。にゃんにゃんちゅー。>」
「ネコリスが?」
「えるむも好き? うちの班はネコリスファンが多くて、ぬいぐるみ作ろうかとか言ってたわよ。」

「<先輩っ、続いて研究所には、なりそこないが二体。AR6で香川、ペンギン、赤鮭が死亡。ARはぎりぎり7で対応可能なようですが、敵の評価80。>」
「…ハードボイルドが死亡なんて。やっぱりここが一番シビアなのか。」
「<オーマ即死に加えて、評価21以上の歩兵は敵に洗脳されるそうです。>」
「こ、攻撃、ですか?」
「<あっ、治癒師の戦略移動が提案されてます。司令部から紅葉国の治癒師部隊が動きますね。>」
「ああ、青く輝く手。良かった。」
「<ここにも、ネコリスファミリーがいるみたいですよー。えっと、それから、スーパーエース2名は、ニューワールドへ移動…?>」
「ニューワールド? 相変わらずスーパーエースの動向って、意図がいまいち読めないのよね。でも、ネコリスがいるということは、と。」
「……。」

「<さて後ひとつですね、郊外の情報も来ました。エースキラーが現れなかったため砲戦は回避されましたが、にらめっこの最中のようです。>」
「郊外は藩王さまもいらっしゃるんだし、何とか丸く行き違いを収めてくれないかしら。」
「<おやー、ヤガミ妖精さんが探されてますね。AR12でヤガミ殺害予告です。>」
「ん、時間が無いのか。ていうか、この時ってヤガミは何処に?」
「火星撤退戦が在ったのなら、撤退途中で襲われるんですが、でも…。」
「そういえば、さっき要塞戦の最期に、希望号改が現れたとか言ってたわね。」
「<ヤガミ妖精、ミサさん登場。宇宙ではなく、ここでヤガミを探すそうです!>」
「……そう、記憶は呼び合うから…。」
「<あっ、無事ヤガミはっけーん。正体不明の存在も掴んでいるもよう。宇宙へ移動の予定はないみたいですね。>」
「まあ、現状で戦闘が始まってないなら、撤退の必要もないんだし。」
「<ええっと、あれ、何かちょっと現場が混乱してます。ドランジが、ヤガミを狙ってる?>」
「え、ドランジ? どうしてそうなるの?」
「<えー、分かりませんー。混乱続行中。今度はドランジ妖精が説得に当たっているみたいですが。>」
「うーん、ヤガミが絡むと、どうしてこう状況が分かりにくくなるのか。」
「えと、分かりにくくする目くらましに、ヤガミが動くから、なのでは。」
「何それ、生きた見せ罠ってこと?」
「……せんぱい、それ、身も蓋もありません…。」
「分かりやすくていいでしょ。」
「<ドタバタの内容がすっきり説明されてないんですけど、ヤガミもドランジも無事なようです。後で現場にいた人たちに聞き込みしておきます。これで分遣隊判定は全部終了ですねー。>」
「まだよ、何言ってるの。欺瞞情報が使われてたということは、向こうはこちらの弛みを狙ってるんだから。えるむ、周辺警戒を継続。なつきは何処かで騒ぎが起きてないか、もしくは情報途絶が無いかを確認して。」
「<…そういえば、さっき一瞬、暗殺部隊がどうの、とか。>」
「ずいぶん物騒な話ね。誰かの冗談?」
「<すいません、無線に細切れに混ざっただけなので、はっきりとしたことは…。>」

やしなの指示で慌てて周囲の監視を再開したえるむは、望遠視界の中で微かに雪煙が上がるのを、見たような気がした。鳥でも羽ばたいたのかとを眼を凝らすが、それらしき物陰は何も見当たらない。鳥にしては速すぎると首を捻りながら、ズームを落として広い範囲を確認しようとした瞬間、視界の端でもう一度雪が舞い上がった。慌てて更に視界を引いていくと、予想よりも遥かに速い速度で、確かに、陽炎のような雪煙がほぼ直線に移動している。
それはまるで、半ば空を舞うように高速で走る何かが、軽やかに地を蹴る長大な一歩であるかのように見えた。だが、雪原に見えるのはその痕跡だけで、肝心の本体は影も形もないのだ。

「……先輩、何か、近づいて来ます…。」
「ん? 何かって?」
要領を得ないえるむの呟きから、しかしやしなは、確かな緊張を感じ取ると、同じ方向へと視線を走らせた。
「何処? 位置情報を正確に計測できる?」
「…移動速度が、物凄いです。でも姿は、目に見えない…。」
「光学迷彩なの? 視覚情報リンクして!」
素早くやしなはえるむと視界を共有すると、その雪煙を見て顔色を変えた。部隊の配置がまばらな箇所を選んで進むその足跡は、確実に司令部中枢に接近している。
「…なつき、班内に警戒態勢を通達。ついでに司令部の秘書官を誰か捕まえて、頭が固くなさそうな人に緊急連絡を入れられるようにしといて。」
「<りょ、了解です!>」
だが、本体のない足跡が接近中などという情報で、司令部が動くとは思えない。やしながおもむろにライフル銃を取り上げるのを見て、今度はえるむが顔色を変えた。
「せ、せんぱいっ、駄目ですよ、いきなり発砲は駄目ですっ。」
「大丈夫、当てないから。威嚇だけよ。」

射撃に自信のあるやしなは、流れるような動作で銃を構えると、次の雪煙が上がる位置とタイミングを測って、その横すれすれを撃ち抜こうとした。だが、弾丸は地面に着弾するよりも手前で弾け、粉々に飛び散った。やしなの顔に、嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「…ちっ、せっかく外して狙ったのに、しっかりはじき返された。ライフルなんかじゃ全然効かないってことね。」
「いきなりライフルで撃たれたら、迎撃はすると思いますけどもー。」
「だったら隠蔽を解いたらいいのよ。これで味方だったら、私がきちんと頭下げて詫び入れるわ。」
妙に嬉しそうなやしなは、明るい声で指示を出し始めた。
「なつき、聞いてたわね。所属未確認の何かが隠蔽状態で高速接近中、司令部に第一報入れて! えるむは続けて位置情報と移動経路を計測、司令部に二報で連絡。」
「<あっ先輩、司令部で対応開始するようです。“妖精に愛されしもの”が動きます。>」
「へえ、司令部もやるじゃないの。でももしかして、通常戦力じゃ…。」

移動する痕跡を追い続けていたえるむ達の視界の中で、突然プラズマ発光のような光が弾けた。その電光が薄れたかと思うと、今まで何も無かった空間に、いきなり黒衣の人物が出現したのである。さすがに驚いたように一度は動きを止めたその人影は、もう仕方が無いとでも言うかのように、今度は悠然と司令部方面へ動き始める。その金の色の髪が風になびいて、空に光の残像を引くような動きだった。
「<やしな先輩、隠蔽状態のキャンセル成功しました!>」
「見えてるわ。何あれ。男? 女?」
「…きれいなひと、ですねぇ。あ、ひとじゃないのか……」
「えるむ、あなたやっぱ大物ね。」
「<先輩、続いて情報入りました。聖銃使いのフットワーカー、EFとのことです。>」
「あれが、聖銃使い…。」
その時、まるでその声が聞こえたかのように、えるむの望遠視界の中でEFと呼ばれた人物が振り返った。向こうがこの距離を視認することが出来たのかどうかは、よく分からない。だがえるむは、確かにその人物と、ほんの刹那眼があったと思ったのだ。まるで、お前を探していたのだとでも言いたげなその視線の中に、えるむは不思議に哀しい何かを見たと思った。

「…なつき、班内に通達。撤退準備始めといて。」
「<えっ、でもまだ命令来てません。>」
「あくまで準備、命令が来たら即動くわよ。聖銃ってどのくらいの破壊力なのか知らないけど、どの道私たちで歯が立つような相手じゃないでしょう。密集してまとめて吹っ飛ばされるぐらいなら、散開するしかないわ。もし万が一部隊が散り散りになったら、各自の判断で移動、合流は牧場でチーズケーキ。いいわね。」
「<りょ、了解! チーズケーキは嬉しいんだけどなあっ!>」
「牧場は郊外のポイントに近いし、藩王さま達と合流できるかも、ですね。」
「うん、あんまり不吉なことを考えたくはないけど、聖銃使いが司令官を足止めしている間に、まとまった部隊で強襲されたら、かなり不味いわよ。犬妖精がいるのが分かってるなら、来るのは本部から風下、この場所はサンドイッチになるから覚悟しといてね。」
「…やしな先輩、最初からそのつもりで、このポイントを?」
「当然でしょ。えるむ悪いけど、司令部と反対側、この背後の警戒もしばらくお願いね。」
「<た、大変です先輩!>」
「どうしたの、なつき。」
「<バロ様がいらっしゃるそうですよ!>」
「えっ、どこどこ。やーん、ファンなの、私。」
先程までのきびきびとした態度とは似ても似つかないミーハーな声を上げるやしなに、えるむは思わず眼が点になる。樹上のスペースから身を乗り出さんばかりの勢いで戦場を見回すと、やしなはよんた藩国が展開するあたりで立ち話をしているバロの姿を見付け出した。
「<うわぁ、EF撃破に必要な評価は85、攻撃の最低根源力リクエスト、100万!>」
「何それ、その笑えない冗談。でもバロ様は確か…。」
「<せ、先輩、バロ様の根源力は現在100万切ってるそうです!>」
「やっぱり、なんか小笠原で無駄遣いしてたのよ! でもそうじゃないと、今頃ここにはいらっしゃれないのかもしれないし……。」

一方えるむは、先程までバロと一緒にいた人物が、今度は建物の影で青い髪の人物と話し込んでいるのに目を止めていた。相手が何かを持ってバロの元へと飛んでいくのを見送ると、青い人はそのまま影に紛れて見えなくなる。
「<おおっ、大丈夫です、やしな先輩。青から根源力の差し入れがあったみたいですよ。>」
「良かった、びっくりした。青に感謝しなくちゃ。いや、バロ様を信じてなかった訳じゃ、ないんだけど…。」
「…ああ、じゃあ、あの人が青…。」
「<バロ様とEFの一騎打ちだそうです。>」
「むう、せっかくバロ様の剣技がお披露目なのに、ここからじゃ遠過ぎるじゃない。野次馬に行ったら怒られるかしら。」
「え、えと、ある意味ここは特等席だと思いますけども。」
「駄目よ、剣が風を切る音がいいのよ。あれが聴こえる距離じゃなきゃ。」
「せ、先輩、まにあっく。」
「<すごーい。応援と合計で、バロ様の攻撃評価95が出ました!>」
「ううー、失敗したー。またとない名勝負を…。」
だがバロとEFの勝負は、バロの剣の一閃で呆気ない幕切れを迎えた。EFの反撃を予想して固唾を飲んで見守る一同の目前で、黒衣の人物は実体のない泡の塊のように、しゅわしゅわと溶けて見えなくなってしまったのだ。
「あらま。何かあっさり引き下がったわね。」
「あ、あの、酷い戦闘より、いいと思います。」
「そうね、大規模な乱戦になるよりはマシだけど。でもどうも何だか、すっきりしない。元々戦略目標のはっきりしない戦闘だったけど……。」
「<そうですよねー、うやむやと言うか、なし崩しというか。>」
「別動隊でも動いてるのかな…。」

「あっ、あのっ!」
「ん? なあに、えるむ。」
「…た、たぶんこの大規模部隊が侵攻して戦闘があった、その事実だけでも充分なんだと、思います。」
「<? どういう意味ですか?>」
「……ああ、成程、そういうことなのか。」
「<ええー、分かんないですってばー。>」
「既成事実ということよ。私達は橋頭堡のアンカーみたいなものね。」
「<うーん、いまいちー。>」
「なつきは勘がいいから、少し勉強したら分かるようになるわ。取り敢えず手応えはいまいちでも、私達はちゃんと役に立ってるし、この作戦の意義を達成しているということね。」
「<…うー、ちょっと勉強します。分かんないと、つまんないし!>」
「それより、えるむは何処でそういうこと習ったの?」
「え、えーと、あのう……。」
「ま、いいわよ。さて、これでたぶん一段落ね。なつきちゃん、班内に警戒解除を通達。どうせこの後の行動命令はしばらく来ないから、それまでのんびりしよう。」
「<せ、せんぱい、買い出しに行ってきてもいいですか?>」
「何だ、まだチーズケーキ諦めてないのか。ついでに美味しいお酒を調達してくるなら、許す。」
「<だっ、駄目ですっ、絶対飲酒は禁止です! こんな他の藩国の部隊が展開してるところなんかで、やしな先輩は飲んじゃ駄目っ!!>」
「いじわるぅ。」
「……え、と、まさか、しゅら…。」
「えるむ、違うの。なつきちゃんが意地悪なだけなのよ。」
「<何言ってるんですか、せんぱいっ! 酒乱なんて、そんな生やさしいもんじゃありませんよ、最終兵器ですよっ!!>」
「そんなこと言われても、自分で覚えてないし。」
「<噂のもみ消しにどれだけ苦労したと思ってるんですくわっ!!>」

 

 

 

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