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Green Fingers

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Out of Mission

 

 

***   Green Fingers   ***

 

青森で食べた林檎がすっかりお気に入りのやしなは、お菓子作りの得意なえるむに色々と作らせて味見をするのが、このところのマイブームである。今日も3人で新作を囲んで、休憩時間に賑やかなお茶会を繰り広げているところだった。
「うん、この林檎は美味しいわ。いい匂い。」
「もうそろそろ時期も終わりで甘みが少ないので、先にジャムにしてみました。」
「普通のジャムじゃ、ないんですね~。」
「えと、カラメルを作ってから、それで林檎を煮込むんです。香りがこってりになりますね。」
「んー、甘くて美味しい。このジャムだけってのはないの?」
「…私はこの間の、甘くないマフィンの方が好きだなあ。」
「やしな先輩、あのう、お願いがあるのですが…。」
「ん? なによ、改まって。」

「あのですね、品種改良研究所で、林業振興向けの新品種がいくつか完成したそうなんです。」
「例のバイテク研究所ね。それで?」
「出来れば、バトルメードの宿舎の庭とかに、植えて頂けると嬉しいんですが、そういうのはどなたに相談すれば…。」
「…遺伝子改良種なんでしょ? 安全性確認とか、済んでるの?」
「は、はい、それはもちろん。成長が早くて病害虫には強いですが、通常品種とそれほどの違いはありません。」
「まだ研究、始まったばっかりですもんねー。」
「まず第一弾は、ミズキとニレですね。これから一年草や果樹が出てくるかと思いますが。」
林檎ジャム入りのマドレーヌを頬張ったまま少し考えていたやしなは、まだ口元を動かしながら話し始めた。

「んー、えるむ、それたくさん用意できるのかな?」
「あ、はい。クローニング培養は安定してきているそうなので、苗の量産は大丈夫です。」
「宿舎の庭もそうだけど、宮廷の庭園管理とバトメの警備体制は連携を取ってるから、頼むことは出来るわよ。育て方とか特徴とか、説明出来る?」
「はい、資料は用意出来ますです。」
「…後は、そうだな。よし、なつき、演習訓練の許可取って。場所は兵舎から守人山方面、WDD部隊との合同作戦ね。」
「はーい、了解でーす。」
「え、あの、せ、先輩」

状況が飲み込めず、やしなとなつきの間で視線を彷徨わせるえるむに向かって、やしなはにやにやといつものような悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。
「WDD部隊の兵舎は隔離環境になってるから、結構ストレス溜まるのよ。慰問も兼ねてお土産持って遊びに行けば、歓迎してくれるわよ。」
「これを私だと思って、大事に育ててね、とか言うんですか~。」
「お、じゃ言い出しっぺで、それはなつきちゃんの任務だ。」
「はうっ、勘弁して下さいっ。」
「そんな余計なこと言わなくても、ちゃんと世話してくれると思うわよ。ニレの樹もあるんでしょ?」
「あっ、ネコリス、ネコリスですね。ニレの樹が増えたら、遊びに来てくれるかなー。」
「さあ? 分からないけど、可能性がない訳じゃ、ないかな。」
「わーい、みんなに教えてきます。ネコリスの森に遠足ー。」
いつもの如くばたばたと駆け出して行くなつきを、やや呆然と見送って、えるむはしどろもどろでやしなに説明を始めた。

「あ、あの先輩、ネコリスはまだ生態が良く分かってなくてですね…。」
「いいのよ、本当に来るか来ないかは、どっちでも。」
「え、ええっと。」
「守人山のあたりは温泉地もあるし、ネコリスが来る”かも”しれない、だけでバトメの連中は充分遊びに行くわよ。」
「…あ、なるほど…」
「バトメが見に来るって分かったら、WDD部隊は総力上げて管理してくれるわね、たぶん。普段から交流があったら、戦闘での連携にもプラスになるでしょう。一石で三鳥ぐらい?」
えるむは思わず目を丸くしたまま、まじまじとやしなを見詰め返した。やしなの出した解答は、樹を育てるという最初の方向性とは全く違う手段であるにも関わらず、確かにその目的を達成し、その上巻き込まれたどの立場にも充分に利益がある、その柔軟な視点に驚いたのだ。
「ミズキというのは、コーネルのことよね。それはぽち姫さまにお贈りして、植樹祭でも開いたらいいんじゃないのかな。それこそ枯らしでもたら、お偉い人達の首が危ない、命懸けで育てるようかもしれないけど。花の新品種が出来たら、お名前を戴くとかでも、いいかも。」

「…先輩、コーネルの故事をご存じなんですね?」
「戦略論を勉強しようと思ったら、古の帝国の知識がないと戦術の意味が分かんないのよ。わんわん帝國において、民の存在の重みが全てに優先する、それと同じでしょ。まあでも、その時々の立場による価値観の違いを理解するのは、いつの時代であろうとも戦略の基本だけど。プロパガンダというのは、立派な戦術のひとつね。戦端が開く前に、如何に有利な意味付けを獲得するのかという意味では、戦略に直接影響する重要な作戦行動でもある。」
「…はい。」
「ま、それよりもまず、自軍のチームワークの方が当面の最優先課題ね。わんわん帝國は、何というか、ぽち姫さまに頼りっぱなしで自分から動くということが苦手だからな。」
「…そうかも、しれません。真面目で控えめというか。」
「そういうの、逆にぽち姫さまのお好みじゃない気がするわ。今になし藩で静養されてるんだったわね。意外と退屈されて、また影で動いてらしたりして、ね。」
「そ、それは…。」
「直接姫さまが動かなくても、独自の情報収集ネットワークはお持ちでしょ。この間の単騎乗り込みの速度を考えたら、ぽち姫さまに先んじて戦場に立つのは、相当の先読みをしないと大変よ。我がままで政治に疎いみたいに言われてるけど、裏工作が嫌いなのと、得意じゃないのは別だと思うけどね。むしろ、表で派手な騒ぎを起こして目眩ましに利用、裏でこっそり暗躍とか、お好きなんじゃないのかな。」
「え、ええっと、あの…。」
「要するに、もし内緒の手足が必要なら、そういう作戦に参加出来たら面白そうってことよ。さて、遠足の具体案を詰めないと。えるむは守人山付近の情報収集をお願いね。」

 

 

 

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