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Messenger of Light

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Green Fingers

 

 

***  Messenger of Light   ***

 

 

「艦長、越前情報戦部隊から入電、作戦成功とのことです!」
待ちかねた吉報がもたらされ、固唾を呑んで推移を見守っていたブリッジにはどっと歓声が沸き上がった。ミサイル一万発という桁違いの爆発物を一杯に詰め込んだ惑星破壊藩国は、要塞戦による血路を切り開いたPPGと、それに続く情報戦部隊の活躍により、終にそのコントロールを明け渡した。誘爆を避けるため、超巨大な宇宙建造物に対して、要塞戦による攻略と情報戦決戦という、防御の隙間をかいくぐるような際どい作戦は、ミサイルの無力化という最大限の功績を挙げて終幕を迎えようとしていた。
惑星丸ごとを破壊するようなミサイルが一気に誘爆を引き起こせば、周囲に展開する味方艦隊もただでは済まない。万が一の脱出劇に備えてじりじりとした待機状態にあった初心級空母も、安堵に胸をなで下ろしたという状況だった。突入部隊の撤退が完了するまでの短い間に、交代で休憩を取っておくようクルーにも通達が回り始める。

「えるむさん、先に休憩どうぞ。私もう少し、情報収集まとめちゃいますね。」
「あ、はい、ありがとうございますです。」
「要塞戦の様子もちょっとずつ入って来てますけど、PPGのやしな先輩も何か凄かったみたいですよ! またファンが増えちゃう。」
「頼りになりますもんね、やしな先輩。それじゃあ、お先に一休みさせて頂きます。早めに戻りますね。」
「いえっ、大丈夫ですよー。ごゆっくり。」
オペレータ用のヘッドギアを外してえるむが立ち上がると、なつきはにこりと人懐こい笑みを浮かべて、ひらひらと手を降ってみせた。

休息が許可され長い緊張から解放された艦内では、クルー達が束の間の息抜きを求めて歩き回っていた。とはいえ、輸送してきた各部隊が空へと放たれてしまった空母の内部には、それほどたくさんの人員が残されているという訳ではなく、人影はさほど多くはない。これから各隊の帰還が始まれば、戦闘に勝利した独特の躁状態に満たされるであろう艦内は、短い平穏に羽を伸ばしていた。

その人々の流れが、にぎやかな食堂方面へ向かっているのとは逆に、えるむはさらに人影がまばらな方向を目指して歩いていった。軽い開閉音と共に目前の扉が開かれると、そこには宇宙船の艦内としては珍しく、空間を高く広げた薄明かりの区画が広がっていた。その丸い天井から壁一面に、リアルタイムの艦周囲の宇宙空間が映し出されている。
魂を持って行かれてしまいそうに深い、果てしない星の海。あえて戦闘宙域を避けたポイントを選んでいるのか、その何処にも繰り広げられた戦いの痕跡を見つけ出すことは出来なかったが、だが、この海に繋がる直ぐそばで、つい先程まで激しい嵐が荒れ狂っていた筈なのだ。

周囲に誰もいないのを確認して、えるむはほっと息を吐いて瞳を薄く閉じ、それから背筋を伸ばして呼吸を整えた。その唇から、静かな歌がこぼれ始める。今はもう誰からも忘れられた、古い古い祈りの歌。歌に合わせて緩やかに、その腕が宙を抱いて舞い始める。高い天井に声は響き返し、残響をまとって廻りながら、底のない星の海へと吸い込まれていくようだった。

遠い故郷の大地には銀の糸の如く、命の竜脈が張り巡らされているように。この黒々とあふれる宇と宙の海にもまた、星を導く程に巨大なちからを持つ竜脈が、眼には見えないその運命の軌道を描いている。それは廻る六合の車輪が形作る、同じひとつの世界の、異なる姿に他ならない。
この静謐に支配された宇宙と、命の気配で満たされた騒々しい地上とが、同じひとつながりの輪の中に存在するのだと心から納得するのは、少し難しい。それでも、星を聴いて風を読む、その技を学ぼうと自らの眼を開くことを諦めない者だけに、世界はその姿を顕わすのだろう。

祈りの歌が終わりその手足が舞いを終えても、星の海のしじまを越えて伝わってくる何かに、じっと耳を澄ませているかのように、彼女は目を閉じたまま静かに佇んでいた。やがてその闇色の瞳が、古えの書物をめくるように、はらりと開かれる。

鬩ぎ合わねば、互いを知ることすら出来ない。それ故闘いが無くなることは決してないのだけれど。でもそれだけで終わるという訳ではない。

今はもう、この世界の何処にもいない人に伝えられた、音にすらならない言葉が、その胸の中に鳴り響いた。宇宙と同じ色の底のない闇色の瞳が、果てしない宇宙の深淵に挑むように、じっと星の海を見詰め続けていた。

 

 

 

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