« 国歌作成プロジェクト | トップページ | i言語ごっこ・その3 »

Twister

Back
 Portia

 

 

***  Twister   ***

 

都築藩国が主導した帝國環状線の主要路線が完成し、その運行が順調にスタートすると、バトメ部隊は目が回るような忙しさに見舞われることとなった。警備体制の充実を図るため、帝國環状線の乗務員教育に、バトメ部隊のノウハウが投入されたのである。

それに合わせて、バトメ部隊が進めていた公衆衛生情報の管理体制が評価され、これも環状線関連の検疫業務の一環として、帝國全土に対象範囲が拡大されたのだ。一気に守備範囲が広げられて爆発的に増加した作業量に、組織体制の再編も人員の増強も後回しのまま、部隊では正に泥縄式の対応が続いていた。

「えるむ、今日の分のデータ、研究所に回ってる?」
「あ、ま、まだです、遅れてますです。今入れてるデータが終わりましたら、私が持って行きますのでー。」
「ううーん、地道な事務仕事はやっぱり苦手だわ。どうしてこんなものまで、面倒見る羽目になっちゃったのか…。」

各地から次々と飛び込んで来る情報は、データプロトコルの統一も追いつかず、ローカルルールが散乱している。これにひとつひとつ目を通し、内容を把握して書式通りにコンバートしていく作業は、地味ではあるが、データベースの信頼性の要として必要不可欠な業務でもある。

「新しい仕組みの立ち上げは、やっぱり大変ですね。色々と想定外のことも多いですし。」
「大体、業務量が増えるのも人手が少ないのも、最初から予想出来ることでしょうが。だったらもっとお偉い人達には、事前に書式統一を進めるとか、連絡体制を整えるとか、ミスを減らす機械システムの充実を計画するとか、頭を使って欲しいのよね。暗号が解けない無線が使えない地図も道路もないで、どうやって部隊を動かすのかしら。これだから、現場を知らないで理論の外側しか知らない人達は…。」

山済みの未処理案件を前にして、やしなは腰に手を当ててむくれている。そんなやしなを見ながら、えるむはくすりと笑みをもらした。
口では言いたいことを言うが、津波のように押し寄せる業務を捌けるよう、やしなは周囲に的確な指示を出し続けている。その意味では、上層部はやしなを見込んでこのポジションに据えているということでもあるのだろう。

その時、聞き慣れた足音がばたばたと廊下に響き渡った。やしなとえるむが示し合わせたように目をやったドアが、二人の視線の先でばたりと勢いよく開いて、予想どおりなつきの姿が飛び込んでくる。
「せんぱーい、せんぱい、たいへんです!」
「…これ以上何が来たの。」
「姉貴が遊びに来るとか言ってます!」

なつきの慌て具合に一瞬緊張したえるむは、その言葉の意味を掴みかねて、思わず首を傾げた。だが、やしなはデスクにばたんと手を付くと、そのまま勢いよく立ち上がった。
「な、なんですって!!」

予想外のやり取りに、えるむは思わず目を丸くして二人の間で視線を彷徨わせた。そのえるむの目の前で、やしなは拳を握り締めたままふるふるとわなないている。
「ああもう、どうしてあのトラブルメーカーがこの忙しい時にっ!」
「…え、ええと?」
「あ、あのですね。」

一方当のなつきはえるむの隣に腰を降ろすと、やしなの反応に満足したとでも言いた気に、にやにやと笑いながら話し出した。
「うちのすぐ上の姉が、やしな先輩と積年のライバルなんですよ。」
「ら、らいばる…。」
「ていうか、喧嘩友達かなー。」
「…やしな先輩と喧嘩するのって、大変だと思いますけど…。」
「ああ、身内が言うのもなんですけど、うちの姉がもう、天然というか野生の本能というか、考え無しというか。」
「ええっと…。」

通常身内が言うのも、という台詞に続くのは、褒め言葉の筈である。にもかかわらず、身内とは言ってもあまりの表現に、何と答えるべきかとえるむはぱたぱと瞬きを繰り返した。だがその言葉とは裏腹に、なつきは嬉しさを隠し切れないとでもいうように、口元をほころばせている。
「とにかく、何にも考えないで行動するくせに、妙に勘が良くって、外さないんですよねー。くじ引きすると、必ず地雷地帯を引き当てるようなタイプなんですよ。」
「しかもその地雷地帯へ突っ込んで、自分はひとつも踏まないでけろっとしてるような奴なのよ!」

うがーと両手を突き上げているやしなの姿は、滅多に見られるものではない。真ん丸の目をしてやや茫然とやしなを見ているえるむに、なつきは笑いを堪えながらも、少し声を落として説明を続けた。
「…ほら、やしな先輩は用意周到な方じゃないですか。で、せっかくのプランを姉貴が引っ掻き回した挙句に、やしな先輩がその後始末をする、というのが何度かあったりしてですね。」
「ああ、何となく分かったような気がします…。」

えるむが納得して表情を緩めると、なつきははにかんだ笑顔で顔を赤らめた。それから照れ隠しのように、いきなりデスクの仕事の山をかき分けて、えるむが焼いたクッキーを掘り出すと、それをほお張ったまま再びやしなに話しかけた。
「でも先輩、今回は姉貴、ひとりじゃないんですって。どうも男の人を連れて来るらしいんですよ。」
「……世の中には、物好きな奴もいるのね。あれの相手がしたいだなんて。」
「それは私も同感なんですけどー、でも妹としてはあんっまり変な奴でも困るんで。ここはやしな先輩に、厳しくチェックを入れて貰いたいなあと。」
「…よし、分かった。あの考え無しがころっと騙されてるのなら、きっぱり別れさせてやる。」

本当に嫌いな相手であれば、嫌がらせとも思われるような剣呑な台詞ではあったが、やしなの表情は至って真面目で、真剣と言ってもいい程だ。その言葉に、本気で心配する額面とは正反対の響きを感じ取って、えるむは笑みを作った。

「…実は仲良しさんなんですね?」
「やしな先輩と対等に張り合えるって、なかなかいないですからね。でも先輩に直接言ったら駄目ですよー、怒りますから。」
「りょうかいです。そういえば、なつきさんは他にもお姉さんが?」
「ええ、うち四姉妹なんですよね。私は一番下なんですけど。」
「わあ、賑やかそう。」
「なつき、で、敵の出現ポイントは何処なのよ。」
「ああ、何か温泉行くとか言ってましたよ。珍しいフルーツが食べたいとか、レンコン食べたいとか。あ、それと、茸だか菌だか探しに行くって言ってた、かも。」
「…分かった、仕事は何としても一段落つけて、勝負だ。さっ、きりきり働くわよ!」
「あ、あー、しまった、ちょっとやぶへびかもー。」
「そこ、無駄口をたたいてないで、仕事しなさい!!」

 

 

 

« 国歌作成プロジェクト | トップページ | i言語ごっこ・その3 »

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: Twister:

« 国歌作成プロジェクト | トップページ | i言語ごっこ・その3 »