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Conductor

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 Athena

 

 

***   Conductor   ***

 

「…先輩、来ました。環状線の配電設備周辺に展開しています。旧システムの死角を移動中、間違いないですね。」
「人数と位置を正確に把握して。WD部隊の待機は、終わってるわね。」
「はい、痺れを切らさない程度には余裕があった筈。」
「一番槍、うちの藩国で取るわよ。ISSも直ぐに合流するでしょうけど、そっちに出番がないくらいの速度を期待するって伝えて。これがどのくらい決まるかで、今後警備員間のイニシアチブを取れるかも掛かってる。」
「了解でーす。わんわんエクスプレスのように迅速に、ですね。」

環状線のコンテナを改造したさして広くもない密閉空間の薄暗がりに、運び込まれた計器類がモニターの光を放って浮かび上がっている。消音のための特殊な絨毯が敷き詰められた床の、妙にふわふわとした状態に落ち着かない様子の白衣の男が、苦虫を噛み潰したような渋い顔をしているのを見やって、やしなはくすりと笑みをもらした。

「さて、”普通の犯罪者”なら物資の掠め取りを狙うことはあっても、環状線そのものを止めても何のメリットもない。こういうことを企む相手なら、手加減はいらないかな。」
「…普通以上の犯罪者なら、装備も攻撃力もそれなりに整えてくるだろう。うちの藩国みたいに実戦経験の少ない部隊に、ISS以上の働きなんて出来るのか。」
「環状線の電源設備の周囲に、部外者がある程度近づけるポイントと言ったら、物資中継基地と配電設備が接近しているこういう場所しかない。コンテナに紛れたこんな場所でやるのなら、勝負は探索と追跡能力よ。感覚評価では負けられないわね、そのために各隊から選りすぐりのドリームチームを組んだんだし。」
「かえって統制が取れなさそうな気がするが。」
「それは大丈夫。大御所をかつぎ出して、睨みをきかせて頂いてる。このところ治安出動ばっかりでくさってたから、格好の演習ってところね。」

咄嗟に思いつく限りの問題点を全て撥ね除けられて、男は再び口を閉ざした。環状線の警備システム監査をえるむ経由で依頼されてからというもの、セキュリティ関連はもちろんのこと、情報システム全般に詳しいと見込まれた彼は、なし崩しにバトメ部隊の技術顧問状態に巻き込まれていた。現場を連れ回されるようになっても、頑なによれよれの白衣を身に付け続け、バトメ部隊の隊員達から「博士」のニックネームを贈呈されるような始末である。

だが、俺は博士ではないと憮然と言い返す彼に向かっても、平然と対等に言葉を返すやしなを気に入ってもいるらしい彼は、極めて高いそのコンピュータ関連の能力を発揮して、環状線の警備システム強化の陰の立役者となっていた。

「テロリストが怖いのは、大衆の中に混ざってしまうからよ。問題なのは、使い捨ての武器と盾にされている人々から、どうやってあぶり出すのか。」
「わざわざその為に、一度立ち上げた警備システムを途中から強化して、新旧のルート間で二重化部分を作ったりしたのか。」
「一応、今回はそこまで性格悪くないけど。バージョンアップのついでに、仕込みをしただけよ。」
「なるほど、今回は、ね。」
「人間の組織が拡大して構造が固まってくれば、次にはラインの中に澱みが生まれてくる。特に帝國のような、官僚主義に陥りやすい体質をしていればなおさらね。情報リークがあったとは考えたくないけど、そんなことをするまでもなく、計画初期に管理が杜撰だったのは事実だし。」

思いつきのあら捜しが莫迦らしくなって、彼は言葉を探すのを諦めた。こんな場当たり的な疑問点は、とっくにやしなの中で検討済みのポイントなのだろう。それでも、計画の確実性を追求するためなら、きちんと第三者の意見にも耳を貸し続けるのがやしなの性格であるということは、彼にも理解出来るようになってきていた。

「組織を薄く広げてアンダーグラウンドで活動する勢力は、計画変更に弱い。連絡を取り合う頻度が限られている以上、そこが弱点になる。結局付け入れられる隙を与えないように、如何に組織内の柔軟性と情報のクリアさを維持するのかというのは、組織の硬直化を防ぐというのと同じ課題ね。」
「先輩、やしな先輩は来ないのかって、大御所からご質問が~。」
「他国と合同作戦だし、今回は遠慮しますってお伝えして。」

隠蔽部隊を動かす難しい情報オペレートを、一手に引き受けているなつきが、インカムに向かってやしなの言葉を伝えると、そのヘッドセットから漏れるような賑やかな集団の声が響いた。通信の向こう側では、音声を複数が聞いているらしい。思わず眉根を寄せたなつきは、それに続く返答を苦労して聞き取りながら、ちらちらとやしなの顔を伺っている。

「…えー、爆笑されてしまいました。えっと…」
「タヌキ親父が余計なコメント入れたんでしょう。なんて言ってるの。」
「え、あのー、確かに最終兵器は、無闇に他国に見せるものではない、とかー。」
「意訳しなくてもいいわよ。久々の実戦だからって、浮かれて盛り上がってるわね。」
「…意外だな、自分が暴れたくて、こんな作戦を組んだのかと思ったが。」
「まだ黒幕は釣れてないわ。万が一のこともある。」

当然の判断だとでもいうように平然と言葉を返すやしなを、さすがに驚いた顔の白衣の男は目を見張って見つめ返した。自軍のエリート部隊を送り出しておいて、それよりも背後に控えようというのである。場合によっては、その主戦力が囮の扱いになってしまいかねない。

「お前一人で、その万が一に対抗出来るとでも?」
「まさか、そこまで自惚れてないわよ。緊急事態に備えて、伝令を残しただけのことよ。ま、ちゃんと奥の手もあるけどね。なつき、あれの現在地は?」
「…あれ?」
「えっと、今日は牧場で羊の毛刈りだとか言って張り切ってましたけど。」
「?」
「…羊も気の毒にね。派手な祭りがあるから、踊りに来いって言ってやって。さっさと来ないと終わっちゃうからねって。」
「えー、私、責任持ちませんよー。ていうか、万が一が無かったらどうするんですか。」
「あれの野生の勘は信用してる。あれが本当に飛んで来るのなら、万が一があるのよ。その時は、トラブルにトラブルをぶつけてやるわ。」
「わーい、チーズケーキ持って来てもらおっと。」
「……一体、何者だ。」
「あ、うちの姉貴ですー。」
「??」

訳が分からんと書いてあるような顔になった彼は、ふと視線を彷徨わせた。遅まきながら、急ごしらえの狭い簡易指令室の空間に、先程までいた筈の人物の姿が見えないのに気が付いたのだ。

「…あー、そういえば…」
「えるむの姿が見えない、でしょ。」
「あ、ああ。」
「彼女はタヌキ親父に、差し入れを届けに行ったわよ。」
やしなの言葉に、一瞬で顔色を変えた彼のその表情に満足したかのように、やしなはうっすらと笑みを浮かべた。

「…直ぐに戦闘に突入するんじゃないのか。」
「そうね、戻って来る暇は無いかな。あれも一種の才能なのかしら、彼女はいつも、主戦場に遭遇する巡り合わせみたいね。」
「さっさとセンサー系の指令端末を寄越せ!」

 

 

 

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