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Picket line 3

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 Picket line 2

 

 

***   Picket line 3   ***

 

「もちろん、あのオペレートの凛々しさも非常に良かった。だがしかし、こう、実物のあの可愛らしさというのはなあ、お前も実際会ってみれば分かる、いや、お前には分からない方がいいかもしれんがっ。」
「…なーに舞い上がってんだよ。」
「あ、えるむさん、その二人は放っておいていいですよ。まずは、こちらと話をしてあげて下さい。」
「は、はいー。」

屈強なWD同士のやり合いに挟まれ、目を白黒させているえるむに向かって、動じる様子もない瑞穂が声を掛けて呼び寄せた。よろめくようにして二人の間を抜け出し席についたえるむを確認して、ついで瑞穂は、ぎゃいぎゃいと咬み付き合っている二人に割って入った。

「王島さんも、その辺で勘弁してやって下さい。柊星は自分のお目当ての声が聞こえなかったんで、不貞腐れてるだけなんですよ。」
「ばっ、かんけーねぇだろがっ。」
「おおっ、お前、まさか…。」
「ま、そんな身の程知らずなと思いますよね。」
「何だ、柊星は高根の花狙いか。」
「だから違うっつってんだろーが、タヌキ親父!」
「…そうか、お前もなかなか苦しい戦だな。よし、お互い頑張ろう、うん。」

一人で妙に納得してしまった王島は、長い腕でばしばしと柊星の肩を叩いてから、何やら感じ入っているようにその腕を組んで静かになった。東国人らしからぬくっきりと彫りの深い顔立ちは、そうしていると整っていると言えなくもない。
一方話のダシに使われ、切れ長の鋭い目付きでぎろりとパートナーの顔を睨みつけた柊星だったが、当の瑞穂は、掴みどころのない薄い笑顔を返すばかりである。

そんな一同の話の行方に微妙に気を取られながら、えるむはヘッドセットを身に付け、慣れない手つきで通信機を操作し始めた。普段使っている単純な通信機とは違い、あちこちの監視装置から飛び込んでくる情報を随時確認出来る、高機能な複合機器である。
今回の環状線関連の警備システム構築に伴い、どんどんバージョンアップされていくこうした機器類の取り扱いは、日々更新されてしまうマニュアルを追いかけるだけでも一苦労だったが、これを難無く、しかもその実力を十二分に活用しているなつきの適応力に、えるむは今更ながらいたく感心した。

「もしもし、お待たせしました。」
「<…えるむか。>」
いつもと変わらぬ無愛想なその口調に、ほんの少しだけほっとしたような響きを感じ取って、えるむは微かに頬を染めた。
「はい、博士。今、いえあの、ちょっと前にはこちらに到着してたんですがー。」
「<分かってる、移動位置は把握していた。無事か。>」
「はいー、まだ何も始まってませんけどもー。」
「<…だったら今の内に、こっちへ戻って来い。>」
「いえ、それは出来ませんです。こちらで、任務を仰せつかりましたので。」
「<これだけの包囲網を固めていれば、今更ひとりぐらい手を増やさなくても、状況は変わらん。>」
「いいえ。」

どこか間延びしたその口調は少しも変わらなかったが、だがしかし、何処か動かし難い静かな力強さを秘めた声で、えるむは答えた。そして、虚を突かれた相手が我に帰るよりも前に、さらに言葉を接いだ。

「帝國環状線はまだ運行中ですし、このコンテナ基地は、都市部に近過ぎます。構内運搬車用のディーゼル燃料に、引火する危険性もあります。敵を誘い込んだのと同時に、私達もこの場所でミスは許されない、ぎりぎりの防衛線であることに変わりはないんです。少しでもお役に立つことがあるのでしたら、私も出来る限りのお手伝いをしたいと、思います。」

えるむの言葉だけを聞くともなしに聞いていたWD部隊の面々は、予想外の内容に目を丸くした。瑞穂がひゅうと口笛を吹き、柊星は初めてその存在に気が付いたとでも言いた気に、まじまじと彼女の顔を眺めている。
そんな一同を、目を細めるようにして観察していた御大と呼ばれる男は、傍らで呆気に取られながらも律義に姿勢を正したまま、硬直している王島に声を掛けた。

「ここにも、猛獣使いがひとりいるらしい。」
「…は、はあ、そのようですね。」
「こういう秘書官を付けてもらえるなら、もう少し勲章の数を増やしておいたら良かったかもしれん。」
「本日の作戦で、増えるのではないかと思われますが。」
「や、実は今日はな、ここにはいない事になっとるんだが…。」
「…御大の秘書官になる人物は、骨が折れますでしょう。」

一方のえるむは、長台詞を一気に続けて息切れしたとでもいうように、ふうと息をついた。自分が一同の目を引いているという自覚が、まるでない様子のえるむは、通信の向こう側の沈黙している理由すらよく分かっていないらしく、続く沈黙にきょとんと首を傾げている。

「<……>」
「あの、博士?」
「<…俺は、博士じゃない。>」
「あ、失礼しました。えと…」
「<いや、いい。システム系で何か俺に手伝えることはあるか。>」
「はい、少しお待ち下さい。」
同じ無愛想でも、いつもとどことなく異なるその声音を気にしながら、えるむは通信にあたふたと保留をかけた。そして、戦闘間際とは思えない程リラックスした雰囲気のまま、雑談に興じている司令官に向かって、おずおずと質問を投げ掛けた。

「あのう、システム関連のバックアップで、何かお手伝い出来ることがありますでしょうか。」
「ふむ、そうだな、風向風速の情報をリアルタイムで流して貰えると助かるんだが…。」
「あ、それは先程俺の方で頼んで調べてもらってあります。後は、通信方法の打ち合わせをして貰えればいいと思いますよ。その博士って方は頼りになりそうですね。相当凄腕のハッカーなんじゃないですか。」
「いえー、あのう、正確には博士じゃなくて、ハッカーでもなくてですね、えと…。」
「さすがは抜け目がないな、瑞穂の太鼓判なら問題なかろう。やしな君は、何処からそんな人材を拾って来たのやら。」
「…ひ、拾った訳では…。」
「ほう、拾ったのはえるむ君か。」
「で、ですから、あの、拾ったのでなくて…。」
「それよりも御大、本当にその作業服のままお出になるおつもりなのですか。」
「なかなか似合うだろう。儀礼服より、着心地がいい。」
「はあ、まあ、お似合いですが。そういえば、アンティーク時計の修理がご趣味とお伺いしましたな。」
「うん、そうなんだよ、あれはなかなか奥が深い。面白いよ。」
「…はい、あー、そういうものでしょうか。」
「王島にはちと向かないかもしれんなあ。瑞穂なら、興味があるだろう。」
「は、私個人は確かに細かいことはあまり得意ではありませんが、我が藩国のWD部隊は工兵の技術力にも定評があり…。」
「あのー、ところで、私は一体何をお手伝いすればよいのでしょうか。」
「ふむ、そうだったな。えるむ君にお願いしたいのは、散歩のお供だ。」
「…は、い……はい?」

 

 

 

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