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Picket line 2

新キャラを構築する余裕が無かったので、倉庫を家捜しして使い回し。

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 Picket line

 

 

***   Picket line 2   ***

 

作業服姿の男に案内されて、えるむはおっかなびっくり地下へと続く階段を降り始めた。建物の外部からは分かりにくいが、鉄道車両の整備基地であるこの場所は、車両の下側からの作業効率を上げるため、地下に掘り下げた空間をしつらえてある。これを入り口として利用し、各ポイントへと続く部隊展開用の地下通路を構築していたWD部隊は、コンテナ車で乗り込んでこの作業所から屋外に出ることなく、直接散開する手筈を整えていたのだ。

年齢を感じさせない軽い身のこなしの男は、狭い作業階段をすたすたと降りて、限られた空間に整然と整備機械が並ぶ地下を進んでゆく。あたふたとそれを追いかけていたえるむは、機器の谷間を抜けて不意に広がった薄暗い空間に、面食らって立ち止まった。決して広くない場所ではあるが、それにしても作業部品すら置かれていないがらんとしたスペースが広がっているのは、おそらく集結していた部隊が移動した跡なのだろう。

その片隅に、先程までいたバトメ部隊の簡易指令室と同じ形式の、情報通信機器類が据えられていた。ちょうどなつきがそうしていたのと同じようにその前に着席して、メットを外し明るい茶色の長めの髪を後ろでくくったWD姿の人物が、ヘッドセットで通信をしている。そしてその前では、同じように頭部以外はがっちりとWDに身を固めた二人が、派手な口論を繰り広げている真っ最中だった。

「だーから、しょっぱな煙幕かますんだったら、それを寄越せって。」
「貴様なあ、その物を考えない頭に、周囲が巻き添えを喰わないような判断力が期待出来んから、無闇に武器を持たせられないと言ってるのが分からんのか。」

いかにもWD兵らしいがっしりとした長身の男が、腰に手を当てて仁王立ちになり、苦言の訓示を述べる軍曹のようにしかめ面しく、説教めいた言葉を並べ立てている。それをうんざりとした顔つきで聞き流しながら、姿勢の悪いひょろりとした男が、絵に描いたような斜に構えたいい加減さで相手を務めていた。

一向に話の接点が見つからない平行線のやり取りを見かねたように、ヘッドセットの男が身を捻って振り返った。いかついWDにはまるで不似合いな、線が細くて色白の女顔が苦笑を浮かべているのが見える。
「王島さん、そいつに論理的説明をしても無駄ですよ。」
「瑞穂、お前よくこんな奴の面倒を見ているな。」
「まあ腐れ縁ですし、鉄砲玉には鉄砲玉の使い道がありますからね。他の武器よりは煙幕弾の方がまだマシでしょう。渡してやっていいんじゃないですか。」
「さすが瑞穂は良く分かってるじゃんか。ほれ、寄越せよ。」
「…つまり、いい勝負なんだな。」

気を削がれて諦めがついたらしい長身の男は、気配なく足早に近付いてきた上官に気が付いて、はっと姿勢を改めて直立不動になった。だが残る二人の、まるで居住まいを正すつもりがない様子に、またしても噛み付きそうになるのを手で制し、小柄な策謀家はにこやかに笑いながら、三人のWDダンサーに歩み寄った。

その後ろにようやく追いついたえるむに目をやって、ヘッドセットの青年がマイクに向かって声をかける。
「ああ、待ち人がこちらに到着されたようですよ。今替わりましょう。」
「居残りですまんな、瑞穂。」
「いえ、ま、気持ちは分からないでもないですから。それに今ちょっと、警備システム管理について、聞いている耳が少ないほうが有意義な意見交換を。」
「成る程、さすがに手馴れているようだな。」
「その代わり良いポジション残しておいて下さい、御大。」
「言われんでも、お前達のチームはどの道切込みだ。」
「はは、何しろ柊星がいるんですからね。」

屈託無く笑いながら、瑞穂と呼ばれた男はヘッドセットを外して立ち上がると、えるむに向かってそれを差し出し、もう一度にこりとあたりの柔らかい笑顔を見せた。
「こんばんは、えるむさん、かな。」
「あ、こ、こんばんは。えと…」
「ご覧の通りWD部隊所属、大抵、瑞穂と呼ばれています。よろしくね。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますです。」

ぺこぺこと頭を下げるえるむの横に、ゆらりと大柄な人影が近付いてくる。えるむがそれに、反応はおろかろくに気が付きもしないうちに、彼女の頭上から、思いがけない大音響が降ってきた。

「えるむさん、えるむさんじゃないですか!」
「あ、え、はい?」

慌ててえるむが振り仰ぐと、真っ赤に顔を染めた先程の大男が、満面の笑みを浮かべて見下ろしている。その顔に見覚えがあることに気が付いて、えるむは懸命に自分の記憶の中から、その名前を捜し出した。

「あっ、えっと、王島さんでしたでしょうかー。」
「ええ、そうです、いやあ、名前を覚えていて頂けたとは、嬉しいですなあ。その節は大変お世話になりました。」
「いえー、こちらこそー。」
「そういえば王島さんの分隊は、バトメ部隊との交流演習の時に…。」
「ああ、あのくじ引きバトルの勝者か。」
「おう、そうだとも。あれは正に、一世一代の幸運だった、うむ。」
「お前達、そんな楽しそうなことをするなら、何故私を呼ばんのだね。」
「そ、そ、それであの、な、なつきさんはお元気でしょうかっ!」
「…さっきまでオペレートの声聞いてたんじゃねーのかよ。」
「だっ、黙れ、柊星!!」

 

 

 

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