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Picket line 9

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 Picket line 8

 

 

***   Picket line 9   ***

 

環状線コンテナ基地の構内通信チャンネルという、予想外のルートから情報が入ったバトメ部隊の簡易司令室では、博士となつきによる懸命の情報収集が続けられていた。WD部隊の主導で進められている今回の作戦では、バトメ部隊は周辺サポートに協力しても、直接の作戦内容の説明を受けてはいないままである。特に、状況に応じて臨機応変に展開されていく御大の作戦運びに、外部から介入しようとすれば、かえって作戦の障害になってしまうことにもなりかねなかった。

しかし偶然とはいえ、自分の部隊員であるえるむを巻き込まれてしまったやしなは、環状線警備システム構築で培った情報網をフル稼働させて、リアルタイムの情報を収集し続けていた。恐らくは、そんなやしなの行動パターンも、御大の作戦概要には織り込み済みなのであろう。そう考えるのは、してやられたというところもない訳ではないが、戦力として当てにされている可能性がある状況で、のんびりと構えていられるようなやしなの性格でもなかった。

その上、えるむの状況を確認するべく、合法非合法を構わず目の色を変えて情報をかき集める博士がいる状況では、作戦に携わるチームの中で最も大量の情報を収集可能なのが、この簡易指令室であることは、疑う余地がない。そして、緊急事態のシグナルを一番最初に拾い上げたのも、やはり博士だった。

「しまった、不味いぞ。」
ぼそりと呟くなり、博士は目前のモニターにのめり込むようにして、猛烈な速度で情報端末のコンソールを操作し始めた。凄まじい速度で画面が移り変わるそのモニターは、常人には鮮やかな光のラインが踊っているようにしか見えない。常にない焦りをにじませたその口調に、やしなが素早く歩み寄って来ると、博士はじろりと、非難がましい目でやしなの顔を睨みつけた。

「正体不明の航空機らしきものを海上で捕捉、超低空飛行のため、詳細データの確認は不可だ。」
「何処のデータかは、聞かないでおくわ。」
やしなは珍しくも苦り切った表情で博士を視線を受け止め、苛立ちをごまかし切れないため息をついた。御大の作戦指揮能力には、万全の信頼を寄せているやしなだったが、都築藩国における航空戦力の不足は、如何ともし難いところである。ISSのI=Dを頼みにしなければならないのは大変不本意ではあるが、この状況ではやむを得ないかと、やしなが考えたその時だった。

「や、やしな先輩! えと、姉貴が来るって言ってるんですが、あの…。」
「ごめん、替わって。」
狭い簡易指令室の傍らで、何やら携帯へ向かってこそこそと話していたなつきが、慌てて振り返ってやしなに声を掛ける。やしなはその手から素早く携帯をもぎ取ると、博士が思わず目を剥くような剣呑な声を絞り出した。

「もしもし」
「<あ、やしな? 久しぶりー。>」
「ちょっと、今何処にいるの?」
「<ん? 今ね、ディーゼルの列車で、環状線の駅に着いたところ。>」
「な、なんでそんなのんびりしてるのよ!」
「<えー、最初に連絡もらってから、そんなに経ってないと思うけど。>」
「こっちは、航空機が動いたわ。さっさと…。」
かりかりと殺気だった声を叩きつけるやしなを物ともせずに、電話の向こう側の人物は、ぴしゃりと言い返した。

「<なに言ってるの。やしな、少し頭冷やせば? 単純に破壊が目的で、航空戦力を持ってるなら、普通は最初から空を狙う。最後に投入してくるんだったら、それは緊急脱出用でしょ。死に物狂いで仲間を救出したい人達と喧嘩するなんて、あんまり気が進まないけど。>」

その言葉に、やしなは思わず息を飲んだ。作戦立案とは、敵が何を目的として行動するのか、その予測に基づいて構築されるものである。敵側をテロリストと仮定して今回の作戦は組み立てられていたが、防空レーダーをかい潜るほどの航空戦力を持つのなら、非合法テロ組織というような戦力レベルを越えてしまっている。我が身を顧みないテロリストの行動と、一定期間は戦線を維持し戦い抜くことを旨とする軍人的発想には、同じ戦場を走るにしても、全く異なるベクトルの選択肢が在り得るのだ。

「…そうか、攻撃目的でないとしたら、どう動くのか予想が付かない。もし、先に押さえたチームを無理に救出しようと、内部を直接狙われたら…。」
「おい待て、先に制圧した部隊周辺の方が、展開戦力が手薄なんじゃないのか。」
「なつき、えるむと御大に、航空機接近を知らせて。構内通信でいいから。」
「えっ、だって傍受間違いないですよ!」
「逆よ、知らせてやるのよ。脱出行動を取るなら、その方が動きが読み易い。今回の作戦目標は、敵の拘束じゃない、最優先なのは環状線の最小被害よ。でもISSにそれが徹底されるかどうかは定かじゃないわ。深追いして無駄な戦闘を起こされる方が、よっぽど被害が大きい。それぐらいだったら、さっさと逃げてもらった方が有り難いぐらいよ。隠蔽解除で、バトメ部隊も動く。」
「あっ、はっ、はいっ!」

慌ただしく動き出した事態に、電源もオンのそのままコンソールの脇へと放り出された携帯から、のんびりとした声が響いた。
「<もしもーし、あのね、チーズケーキもちゃんと買ったから…。>」

 

 

 

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