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Picket line 5

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 Picket line 4

 

 

***   Picket line 5   ***

 

帝國環状線の設計と計画推進を担当した都築藩国には、コンテナ貨物の積み降ろしや、終夜便として運行される長距離列車を待つ物資を、一時留め置くための、広大な貨物基地が設けられていた。検疫などの貨物検査所や車両整備所なども併設されたこの場所には、最も物資が集まる夜間の時間帯ともなると、深夜の出発に備えたかなりの数のコンテナが所狭しと並べられるのが常だった。

貨物の輸送量増大に合わせて、建設初期よりもそのエリアを拡げ、敷地一杯をフル稼働させているこのコンテナ基地ではあったが、その中でも、環状線運行の要のひとつである変電所設備周辺だけは、他とは一線を画すように、周辺に大きく余分な面積を確保されていた。電力施設内部とその周辺をぐるりと取り囲む緩衝地帯とは、常時明るい照明に照らし出されて、立ち入り禁止区域であることを静かに主張している。

その煌々たる光に守られた場所を目指して、外側を取り囲み黒々と居並ぶコンテナの合間を縫うようにして、忍び寄る一群の集団があった。この広大なコンテナ基地一面には、東国人特有の神経質に感度の高いセンサー警備網が張り巡らされていたが、都築藩国の誇る高度な赤外線警報システムも、予め設置位置を把握して迂回されれば、その実力を発揮することは不可能である。暗視カメラを装備し、その目には見えない筈の赤い光を巧みにかい潜る闇色の兵士たちは、丹念に訓練された緩みの無い動きで、慎重に目的地へ向かって浸透し続けていた。

コンテナ基地内でも最も奥まったこの場所は、一番最後に搬出される物資に割り当てられる地区であるため、深夜便の運行準備が始まるまでは、貨物の動きもそれほど頻繁ではない。Cー202電気設備部と呼ばれるその周辺を取り囲む、電流の流されたフェンスは多少やっかいだが、その制御装置に最も接近したポジションまで侵入してしまえば、破壊にそれほどの労力は掛からないものと推定されていた。

事前に施設及び警備システムの詳細な設計図を入手して行われる作戦では、彼らにとっては楽な部類の任務でしかない。あまりに順調に運ぶ作戦展開に、後続を待つまでも無く、と考え始めた彼らに、思わぬハプニングが待っていた。闖入者が、現れたのである。

「時にえるむ君は、バトメ部隊には比較的最近の加入だそうだが。」
「あ、はい。最初の配属が、やしな先輩の班でしたので。」
「そうかそうか、それはラッキーだったな。」
「はいー、本当にそう思いますです。」

整備員の作業服を身につけた小柄な男と、バトルメードという組み合わせの二人が、変電所へと向かう広々とした構内道路を歩いていた。バトルメードという存在に一瞬警戒した侵入者達だったが、帝國環状線の乗務員教育に、バトルメードのノウハウが導入されているのは有名な事実である上に、その手には場違いに大きな、ピクニック用のバスケットが握られている始末だ。

北へと二人が進む道路は、電力設備を包囲するフェンスに突き当たり、そのまま周囲を巡る道へと繋がっている。その道を東へ曲がり敷地に沿って進めば、施設東端に設けられた入り口へとたどり着くのだ。これから自分たちが攻略しようとしている、その同じ場所を二人が目指しているのだと判断した彼らは、自分たちに与えられた作戦行動の意味を考え、判断に躊躇した。

彼らに任されていたのは、あくまでも後続の作戦をサポートするポジションであった。時間稼ぎと陽動の任務のために、別動隊と示し合わせたタイミングには、まだしばらくの余裕が必要である。構内道路には一層きめ細かいセンサーが設置され、それに全く影響なく二人を排除することは、極めて困難と推定された。
むしろこのまま二人が進んで、攻略目標である施設入り口に接近すれば、一緒に巻き込んでしまうことも可能だろう。そう判断した彼らは、他愛のない会話を続けながら、のんびりと歩む二人を、そのまま泳がせることにした。

「そういえばそろそろ、藩国合併の動きも本格化してくるだろう。」
「はいー、そうですね。やしな先輩が、今後の部隊編成を、色々と考えてらっしゃるようですよ。」
「成程な。歩兵と整備、パイロットの人材も持つ藩国との合併は楽しみな面も多いが、バトルメードは少し難しいか。」
「はい、どうしてもバトメは、直接的な攻撃評価には劣りますので。あまり人員が多過ぎても、ということですね。」
「しかし、バトメだからこそのポジションもあるからなあ。」
「やしな先輩も、そこにこだわりがあるみたいに、言ってらしたですけどー。」
「ははは、やしな君らしい。少し難しいぐらいの課題でないと、物足りないんだろう。」
「あ、そうかもしれませんです。」
「おや、ちょっとすまん。ドライバーを落としてしまったようだな…。」

ゆったりと話しながら歩く二人を、じりじりと待っていた侵入者達は、何かを落としたらしい作業服の男が、バトメを待たせたまま今来た道を逆戻りしているのを見て、ぎりりと奥歯を噛み締めた。バスケットを持ったまま、所在無げに佇んでいた彼女は、戻って来た男に背後から促され、微笑みながら道の突き当たりを曲がって、電力施設を明るく浮かび上がらせる照明の中へと、足を踏み出した。もう一息、侵入者達が思わずほくそ笑んだその瞬間。彼らを取り囲んでそびえるコンテナが、ぎしりと動いた。

 

その時、二人のお喋りと足音以外にはしんと静まり返っていた構内に、突如耳障りな大音響と衝撃が轟き渡った。大型の金属同士がこすれ合う頭蓋を揺するように不快な轟音が、並んだコンテナの壁に反射して渦を巻く。びくりと身体を震わせて驚きに硬直したえるむは、一拍丸ごと遅れて、あたふたと司令官の側へと駆け戻った。まるで役に立たないながらも、気持ちだけは上官を守ろうとの行動だったが、当の整備服姿の男は、落ち着き払ったままにこやかにえるむを見つめ返している。

「え、えと、あの、あれは一体何の音でしょうか。」
「ふむ、貨物コンテナが、衝突事故でも起こしたんだろう。」
「じ、事故ですか?」
「何を言っとる、GOサインを出した張本人が。」
「あ、え、はい?」
「今お前さんが通過した位置には、赤外線レーザーの警備装置が設置されている。横切る物体があれば、受信装置に照射されているレーザー光が途切れて、信号として感知するという奴だ。それが作戦開始の号令になっとった、という訳だな。」

思わずえるむは、肉眼では見える筈も無いそのレーザー光の存在を求めて、自分の足元にきょろきょろと目を走らせた。その耳に、先程よりは小さい音ではあるが、鈍く重い何かを叩きつけるような衝撃音が伝わって来る。周囲をコンテナに囲まれ、音の方向が分かりにくい中で、迷う事なくその震源地である方角へと顔を向けたえるむに、男は微かに鋭い視線を投げかけた。

「ま、また何か、ぶつかった音ですか?」
「ふむ、コンテナの扉が開いて、米粉が山程降って来たんじゃないかな。」
「は、はいっ!?」
「いや、粉というものを莫迦にしてはいかんよ。コンテナがいきなり動いて囲まれた上に、それ一杯の米粉が雪崩れてくれば、まあ、まず切り抜けられはせんだろう。コンテナの跳弾を警戒していれば、携帯する武器はレーザーが主力で、粉が舞い上がれば使いものにはならんしな。むしろ粉塵爆発の危険性を考えれば、自分達が危険かもしれん。さっきのマフィンを考えると、少し勿体なかったんだが。」

ぽかりと口を開けたまま、呆然と立ち尽くしているえるむを余所に、男はにやにやと心底楽しそうな笑みを浮かべて、変電所の向こう側へと視線を投げかけた。

「さて、これでもう一匹が釣れるかどうかだ。」

 

 

 

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