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Picket line 6

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 Picket line 5

 

 

***   Picket line 6   ***

 

初動で遅れを取った王島達のチームは、一目散に地下通路を駆け進むと、積み上げコンテナに偽装された待機所へと滑り込んだ。このコンテナ基地でも最も外周に近い、Aの町名が割り振られた最北の地区は、長期保管の物資も多く、地面からの出入口を偽装出来る場所には事欠かない。傍受の危険性が極めて少ない有線による通信設備と、警備システム端末、そして展開用のピケを待機させたこのような待機所が数カ所、今回の作戦の為に用意されていた。

敵が考えたような内部へ侵入しての作戦行動は、守る側からすれば、敵勢力よりも外へと手を伸ばし、自軍勢力内に抱き込んでしまう形となる。今回の作戦はこれを採用し、敵後続チームもまた、既にB地区までの南進を許しているものと予想されていた。しかし、外部にリークしてしまったらしい旧警備システムの死角よりも、さらに慎重な行動を取っているらしいこちらのチームは、一度その存在を掴みながらも、現在地の確定には至ってはいなかった。

赤外線による通過物体の検知システムは、コンテナの移動管理にも採用され、環状線周囲には広く張り巡らされた方式だったが、これには、警報に感知されずに敵が確認する手段が存在するという、極めて初歩的な弱点がある。これを補うため、新システムで採用された幾つかのセンサー網の中でも、その侵入の気配を捕らえたのは、集音マイクによる補助システムだった。

環境音には、その場所ごとに特徴的なパターンが存在する。これを収集、解析し、「聞き馴れない音」に対して警告を発するこのシステムは、他の指向性センサーに注意を喚起するための、あくまで補助として採用されたものだった。だがその、広範囲を補足可能という特色が功を奏した形ではあったが、一方で情報の特定力の不利は、避けられなかったというところだろう。

「おう、柊星、随分と大人しいじゃないか。まさかとは思うが、緊張してるんじゃないだろうな。」
「……。」
待機所へとたどり着くなり、警備システムの情報チェックを続けている瑞穂の傍らで、王島と柊星は出動の準備を整えていた。先程まで何かと減らず口を叩き合っていた柊星が、急に黙り込んでいるのを見て、王島はすかさずちょっかいを出してくる。自分ではさしたる自覚もなく、無意識に周囲の面倒見の良い王島は、戦闘を控えた緊張に堅くなっているのかと、気になったというところもあったのだ。

「王島さん、スイッチが入った柊星は、ほとんど会話が成立しませんので。」
「スイッチ?」
「野生の獣みたいなもんですよ。攻撃本能が最優先で、人間らしい反応は望めないと思って頂ければ。」
「…なるほど、それでブラッド・ハウンドか。」
それはWD部隊には広く知れ渡った柊星の二つ名であり、軍人としては誉めるのにも貶されるのにも使われるであろう言葉だったが、その言葉の裏に、含むところも無さそうな王島の口調に、瑞穂は少し表情を緩めた。

「事前にきちんと納得している作戦行動を外したりはしませんよ。臨機応変な判断力は、まさに動物の勘的に鋭いですけどね。機器類の操作や運転は、あまり任せられませんが。」
「俺も、ピケの運転はそれほど得意じゃないんだがな…。」
「構内道路は状態がいいですし、一直線に南下するだけですから。目標より前に出て十分接近出来れば、ピケは乗り捨ててもいいでしょう。その辺りは、柊星の勘を信用して頂けると有り難いんですが。」
「…どんなに下手でも、瑞穂のサイドに乗るより、なんぼかマシだ。」
「ほう、人は見掛けによらんな。そんなに酷いのか。」
「まあ巧すぎりゃつまり、アクロバットだよな。」

戦闘を控えたこのタイミングの柊星が、自分から口を開くことは珍しい。思わず微かに目を見張った柊星は、このチームに王島を加えた司令官の人物評価の確かさに、心中で舌を巻いた。
「ということで、久しぶりにサイドカー外してもらえましたので、ピケは俺が何とか近くまで乗り入れます。柊星は放っておいても、一番危険な切り込みに食らい付きますから、それを目印に追跡してもらえれば問題ないでしょう。」
「俺をコンテナの上に投げ上げればいいんだよ。」
「…なんだ、俺は踏み台か。」

 

ちょうどその頃、作戦第一段階の先攻部隊制圧にほぼ成功したその当の司令官は、自ら現場の風に身を晒しながら、次の導火線に火を放とうとしていた。
「えるむ君、構内通信のチャンネルを、バトメ部隊用に割り当てて貰っとるだろう。事故らしいと連絡して上げなさい。」
「えと、やしな先輩に連絡すればいいのでしょうか。」
「とりあえずやしな君に情報が届けば、後は上手い具合に手を回してくれるだろう。」
「あ、はい、あの、やしな先輩からは、傍受の危険性が高いので、構内通信には注意するようにと言われておりますが…。」
「うん、それでいいんだよ。コンテナ基地で事故らしい大きな物音がしたので、環状線の職員に、通報した方がいいんじゃないかとね。」

 

 

 

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