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Picket line 7

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 Picket line 6

 

 

***   Picket line 7   ***

 

”あ、すいません、なつきさんですか。こちらはえるむです。”
”あれ、えるむさん。お届け物は終わったんですか?”
”いえ、あの、まだ移動中だったんですけれども。実はこちらで、もの凄い音がして、コンテナ事故なんじゃないかと。”
”えっ、事故ですか!?”
”危険かもしれないので近寄って確認はしていませんが、重い金属がこすれるような凄い音がしましたので…。”
”うわー、歯に響きそうですね。分かりました、こちらから構内警備に連絡して、確認してもらいます。”
”ええ、よろしくお願いいたしますです。私達はこのまま、電気設備部へ向かって、そちらでも調べて頂くようにしますのでー。”

 

環状線コンテナ基地の敷地内に北から南へと侵入し、警備システムをすり抜けて進んでいた一群の侵入者達は、傍受していた構内通信の内容から想定外の情報を拾い上げ、難しい判断を迫られることとなった。
爆発物を運搬するこの後続部隊は、工兵を中心に組織されて攻撃力にはやや劣るものの、その分技術者らしい注意力を発揮して、把握済みの筈の赤外線の警備システムに追加された部分があることを、自力で発見していた。それを避ける慎重な前進のため、この通信を傍受した時点でも、既に予定よりも遅れた行動を取っていた彼らは、構内のさらに内部、先攻部隊が作戦を開始する予定ポイントに近いと思われる辺りから、原因不明の大音響を聞きつけて混乱していたところだったのだ。

先攻部隊の動向は確認出来なかったが、少なくとも構内事故の可能性ありと警備部署に連絡が入り、騒ぎが大きくなれば、人が集まってくるのは間違いない。ましてコンテナ事故ともなれば、運搬用重機が入って来る可能性も高く、コンテナの移動をかけられれば、発見されるどころか、その移動に巻き込まれる危険性すらあるのだ。

先攻の陽動部隊が時間稼ぎすら出来なかったとすれば、例え爆発物を変電所周辺に設置しても、撤退する時間が確保出来るかどうかさえ定かではない。今回の作戦が単純な攻撃ではなく、爆発物を運搬してのプランになったのは、環状線の送電施設そのものは地下ケーブルによるものであり、設備の地上部分を浅く攻撃しただけでは、大した打撃は与えられないものと推定されていたためだった。地下部分の破壊のためには、まず陽動部隊による攻撃で変電設備周辺を取り囲むフェンスに流された電流を止め、施設の内部での爆破を可能にすることが必要との判断だったのだ。

最終的に爆破という目的がある以上、目標規模の破壊が不可能と決定した時点で、爆発物の存在を感知されるより前に即時撤退し、戦闘行動を取っているチームをひとつに絞る方が、後々の作戦のためにはプラスであったかもしれない。しかし、既に陽動部隊が深く浸透している筈だという状況が、そのリーダーの判断を狂わせた。情報が混乱したままに、その爆破チームは作戦行動の続行、しかも、時間の遅れを挽回するための強行突入という、無謀な決断を下した。

 

「…よし、掛かった。ビンゴ、構内道路の直ぐ西側だ!」
瑞穂の声を聞いた瞬間、バネが弾けたように機械的な素早さで柊星が反応した。背を丸めた姿勢の悪い身体に、手にした煙幕弾装填の銃を抱き込むようにして、コンテナの扉を体当たりでこじ開ける勢いで外へと飛び出して行く。それに続いて、手際よく単独のピケを動かして外へと乗り出した瑞穂は、瞬間の反応では遅れながらも、落ち着いてサイドカー付きのピケを操作する王島に声を掛けた。

「右へ曲がって構内道路に出たら左折、南下して下さい。目標は構内道路の向こう側をコンテナ2台分ほど奥、俺たちが一番近いポジションです。」
「おい、距離をどれだけ南下するんだ。」
「B地区に入ったあたりですが、向こうも動いています。追跡は柊星の勘を信じて下さい、あれの眼も耳も尋常じゃないんで。」
それだけ言い終えるなり、瑞穂は車体をコンテナに擦りつけるような荒っぽい操作で首を入れ替え、構内道路へと飛び出すと、そのまま逆方向、北上側へとあっという間も無くピケを疾走させた。自分としては精一杯の操作で、慣れないサイドカー付のピケを視界の開けた構内道路へと連れ出した王島は、待ちかまえた柊星が当然のようにサイドカーへと飛び上がり、そのまま起立しているのを見て、思わず声を大きくした。

「瑞穂はどうして北上なんだ。」
「迂回して挟み撃ちの出来るところまで回り込む。すげー飛ばすから心配いらねーよ。」
「俺は運転が苦手だと言っとるだろうが、頼むから、座ってくれんか。」
「だーから瑞穂の運転に慣れてりゃ、こんなに平らな道路を真っ直ぐ走ってるぐらいならなんでもねぇんだよ。障害物が無くて曲がらなきゃ、車体はそんな簡単にぶれない、さっさと走らせろ。」

口は悪いが、一応は自分を信用しているらしき柊星の物言いに、王島は覚悟を決めるとピケを発進させた。本当に慣れきっているらしい柊星は立ったままの姿勢で、作業通路の開けた視界の向こう側、そしてその先に居並ぶコンテナ車両の連なりに向かって視線を投げ掛けている。

風もなく、星が美しく見えるほどに晴れ上がった冬の夜は、月明かりもないまま黒々と闇に沈んでいる筈だった。暗視カメラを装備した彼らには、不自然に赤い物体の影が視界に映されてはいたが、それはお世辞にも鮮明であるとは言い難い。通路の右端まで車体を寄せ、それに沿って進んでいた王島が、この状態でどれだけ勘が働くものかと訝ったその瞬間、彼の疑問に抗議するかのように、柊星が急に背後を振り返る。慌ててブレーキをかけた王島の耳に、柊星の嬉しそうな声が届いた。

「おっ、いい反応してるじゃねえか。」
「うるさい、追い越したのか。」
「たぶん。肩貸せよ、コンテナの上に上がる。」
「待て、いくら何でも単独で行かせられるか。」
「このひとつ後ろのコンテナの間が、連結切られてる。そっちから回れると思うぜ。」

確かに、”ブラッド・ハウンド”の名は伊達ではないらしい。その感覚の鋭さに一瞬唖然とした王島だったが、憮然としながらもそのまま柊星の指示に従い、コンテナに向かって足場を確保した。少しの躊躇も無くそれを踏み越え、驚くほど身軽にコンテナ上部に飛び上がった柊星は、瞬時に目標を捕捉すると、身振りで王島に方向を指し示して、そのまま身を翻した。あたふたとピケの停止をかけた王島は、半信半疑で柊星の言った通りのコンテナの隙間に走り込むと、確かにその部分が通り抜けられることを確認して、思わずため息をついた。

侵入者達からすれば、計画の無謀さはあっても、柊星の追跡を喰らったということは、不運と嘆いても無理からぬことだっただろう。柊星がコンテナの幾つかを、WDならではの強靱な跳躍力で踏み越えると、その音は爆破チームの人員に一種のパニックを招いた。原因不明の鈍い打撃音のような大音響が、急速に接近してくる。リーダーが指示どころか判断を下す暇も与えず、次の瞬間には頭上から撃ち込まれた煙幕弾が、もうもうたる白い煙を噴き上げたのだ。そのまま地上に乱入したくなるのをぐっとこらえた柊星は、コンテナの角を回ってやっとの事で追いついてきた王島に手振りで侵入方向を指示し、風下を取らせた。

風はちょうど北から南へ、緩やかにその勢いを強め始めている。構内通路に沿って南へ進もうとしていた侵入者達のど真ん中に最初の煙幕弾を撃ち込んだ柊星は、王島がその南側の進路を塞ぐ位置に回ったのを確認して、今度は敵チームの背後に移動して煙幕を追加した。そのまま追い立てられるように前進して逃れようとした侵入者達の前方に、今度はWD姿の長身の影が立ちふさがる。

敵侵入者達の装備は、予想されたようにコンテナの金属壁による跳弾を警戒し、レーザー光線系の武器が主流に選択されていた。煙幕弾に巻かれて、その光が拡散することに慌てふためく彼らを前に、王島は大口径の不格好な銃を構え、無造作に発射した。その弾は実体を持って空中へと奇妙に広がると、その勢いのまま侵入者達を巻き込んで、背後のコンテナへとまとわりついた。煙幕弾に巻かれて周囲の状況が掴めないままに、次々とやや間の抜けた発射音が響き渡る。それがいわゆる、トリモチ状の拘束用武器であると気が付いたころには、既に侵入者達の多くが、その餌食となりつつあった。

さすがの柊星も、トリモチを撃ち込まれる最中に飛び込むほどに、見境のない行動を取れる筈もなかった。前進を押さえられた侵入者達が、やっとのことでジリジリと後退を始めるのを、じっと頭上から観察していた柊星は、その混乱の最中でも慎重に扱われている大きめの梱包物を眼にして、眼光を鋭くした。

 

 

 

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