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Service dress

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***   Service dress   ***

 

経済関連の調査報告をまとめ終え、派遣任務を解かれたえるむは、久しぶりにやしな達の部隊へと戻って来ていた。藩国軍の再編が進む中で、各組織間の調整役に奔走しているやしなを、事務全般からサポートするようにとの御大の心遣いである。藩国合併に伴う軍組織の改正は大々的に行われて、旧都築藩国バトルメード部隊にも、その波は押し寄せて来ていた。今後の主力戦力となるWD部隊は、ほぼそのまま横滑りの組織が残ることになったが、旧ビギナーズ王国と競合するバトルメードは、人員の再配置が進められようとしていたのだ。

藩国合併に伴うトラブルは、あちこちで火を吹いては、慌てて周囲が消し止めるというイタチごっこを続けている。この現状の危ないバランスを何とか維持したまま、出来るだけ速やかに収拾するための地道な日常の努力が、もうしばらくは必要となるだろう。

そんな状況の中でも、一向に自分のペースを崩さないえるむは、以前と変わりなく手作りの菓子を持ち込んでは、あちらこちらにばら蒔いている。活動範囲が広がった分、ばら蒔きの範囲もレパートリーも広がった、そんな様子だった。特に旧都築藩国では伝統的な東国人風の素朴なお菓子が、かえって初心では物珍しくて人気らしく、本日は乾燥させた餅を油で揚げたかき餅を、ぽりぽりとつまんでいるところである。

「えるむさん、御大の所でのお仕事は、どんな感じでした?」
「いえ、それが、調査結果をまとめて報告する時ぐらいしか、御大にはお目にかからなかったんですけど。」
「あー、そうですね。あの方も神出鬼没で有名なので。」
物怖じしない性格で、新しい環境への順応性が高いなつきは、こちらも相変わらずいいやしなのサポートを果たしている。書類がやっと少し片付いた隙間に、やや行儀悪く寄りかかるようにして肘を付き、獲物を狙う猫のようにかき餅に手を伸ばすなつきに、えるむは煎れ立ての緑茶の差し出した。

「えっと、そういえば、ご存じでしたら教えて頂きたいのですがー。」
「はいはい、何ですか?」
「あの、御大は、何故”御大”と呼ばれてらっしゃるのでしょうか。」
「それがですねー。」
「上がったり下がったり忙しい人だからよ。」
「あ、やしな先輩。」

こちらも猫のように、いつの間にやら二人の背後に忍び寄っていたやしなが、ひょいと二人の傍らに顔をのぞかせる。そのまま、素早くかき餅をつまみあげると、やしなはそれを口の中へ放り込んだ。
「え、えと、上がったり下がったり?」
「えー、今は杉宮准将ですけど、その前は少将でですね。」
「…あ、あら。」
「でもその前は、大佐だったわよ。」
「そーなんですよ、えっと、その前はどうでしたっけ。」
「要するに、階級にこだわりがない方だから、やたら難易度の高い電撃作戦を成功させて二階級特進かと思うと、上官の指示をのらりくらりやり過ごして降格を食らったり、経歴が滅茶苦茶なの。で、あんまり入れ替わるもんだから、周囲が混乱して階級を呼ばないでいるうちに、御大で定着しちゃったのよ。」
「うわあ、いかにもらしいエピソードですね…。」
「面白い方ですよねー。なんかちょっと悪戯っ子みたいで。」
「…あのタヌキを子供呼ばわりとは、なつきもなかなか大物だけどね。」
「え、もののたとえですよっ。」
「まあ、なつきちゃんは、身内がグレート揃いだからな。」
「ああ、あのお姉様…。」
「いえー、はるかお姉は、うちの一族の中ではわりと穏健派ですよー。」
「…あの方でおんけん…。」
「あ、えるむ、勇退希望者まとまってきたから、調整頼むわね。」
「あ、はいー、了解致しました。」

やしなはもぐもぐと口元を動かしながら、抱えていたファイルの山をいったんデスクにどさりと降ろすと、中を確認しながらてきぱきとさばき始めた。バトメ部隊の再編に伴って、人員整理のための希望調査が進められていたのだ。環状線やWD生産の関連技術などを新しい藩国へと持ち込んだ旧都築藩国側は、転職が比較的速やかに可能との予想から、大幅な人員削減が求められていた。
「予想よりも応募が順調そうで良かったですねー。」
「ま、再就職の先は引く手数多だからね。環状線のチーフパーサーと駅構内の売店の運営が、やっぱ希望者多いかな。」
「新設の経済専門家にって要請があったのは、ちょっと意外でしたけど。」
「確かに交渉と調整はバトルメードの得意分野だし、今後は帝國だけじゃなく、共和国やオリオン、ペルセウスも視野に入って来れば、場合によっては要人護衛も兼ねるというケースが有り得るからね。えるむに先行して資格取ってもらって、マニュアル系の充実も進めてるし、今後の連携も図り易いし。」

「あのう、やしな先輩、その件について、御大からお話があったと思うのですが…。」
「あ、聞いてるわよ、政府要人に、秘書待遇で張り付かせるっていうんでしょ。」
「えー、何でまた、そんな方向に。」
「今後は経済方面に強いスタッフは不可欠だという御大の触れ込みでね、一応。」
「いちおう? んじゃ本音はどのあたりに。」
「古狸共の首に鈴を付けるのに決まってるでしょ。」
「あー、なるほど…。」
「旧都築は、規則はがっちり組むけど、風通しが悪くて融通が効かない。一方でビギナの方々は、独立独歩で自分からアクション起こせる代わりに、組織がかなり緩やかだから。都築流でごり押しされると、ポジション争いとかは、かなり不利だと思うのよね。そういうの、あまりピンと来ないんじゃないかしら。」
「バトメもほとんど部隊としての組織化運用は、されてなかったみたいですしね。」
「そのあたりの構築は、まだしばらく課題だな。今後は、戦闘でも要求される戦術性は難易度高くなっていくだろうし…。」

自分の思考に没頭し始めたやしなは、どさりと椅子に身体を預けると、腕を組みやや厳しい表情でうつむき加減である。人員としては今後少数派になるであろう旧都築のバトルメードではあるが、WD部隊との連携も構築の必要性などから、組織運営の方法論としては都築方式が採用されることになっていた。これまで組織だった運用に馴染んでいない戦力を、少ないスタッフで舵取するという難しい課題に、やしなは周囲のほぼ満場一致で抜擢されている。そんなやしなを見やって、二人は何とは無しに顔を見合わせると、声を落としてひそひそと話を話を続けた。

「…このところ、やしな先輩、元気無いですよね。」
「はあ、お仕事もなかなか難航してますし、お疲れかもしれませんです。」
「うーん、それもあるんですけど、何かそれだけじゃないような気がするんですよねー。」
こちらも腕を組んで、首を捻っていたなつきは、不意にはたと顔を上げると、ぼそりと呟いた。
「あ、めんどくさいのが来た。」
「え、あ、はい?」
思わず聞き返したえるむの背後で、ばたりと勢いよくドアが開いた。それをつむじ風のように勢いよくすり抜けて、人影が飛び込んで来る。それがくだんの、なつきの姉であるはるかという人物であることに気が付き、えるむは足音を聞き分けるなつきの耳の良さを、改めて思い出した。

環状線施設の攻防戦で、文字通りの飛び入り参加という華々しい乱入に、旧都築の軍部では密かな有名人となってしまった彼女は、いつの間にやら頻繁に、バトメ部隊に顔を出すようになっていた。親族とはいえ、軍の内部に部外者が簡単に出入りするなどということは、通常なら有り得ない。その度にやしなと派手な応酬になるのだが、既に軍関係者に何人も顔見知りを確保しているらしいはるかは、懲りずにその乱入を繰り返していた。
「やしなちゃん、いるー?」
「お姉、また来たの!?」
「えー、せっかく遊びに来たんだから、もうちょっと歓迎してくれてもいいじゃないの。」

そう言いながらはるかは、珍しくもふわりと華やかに広がるスカートを翻しながら、かつかつとやしなに歩み寄った。いつもなら飾り気のないタイトな服装の多い彼女だったが、今日着ているのは、如何にもバトルメードの制服ということを主張する特徴的なデザインの、機能性よりも可愛らしさを優先したドレスような格好である。
「…そ、その制服、どうしたのよ!」
「ん? 新しいバトメの制服のサンプル試着だって。ハイ・バトメっていうの? すごい可愛い制服なのね。」
そう言いながらはるかは、その華やかさを際立たせるように、ふわりと廻ってみせた。女の子好みの白いレースをふんだんに使った長めのスカートが、周囲の雰囲気まで染めて可愛らしさを演出するように、ふんわりと宙を舞う。
「やしなちゃん、もしかして、こういうのは抵抗あるんじゃないかなーとか思って。でも、ほら、たまには気晴らしのイメージチェンジで、こういうのもいいでしょ。」
「…あっ、お姉もまた、そういうことを…」

同じバトルメードではあっても、これまでの東国人らしい控えめでシンプルな制服だった都築藩国のバトメの制服とは、まるで違ったイメージのデザインである。まして、どんな時もきびきびとした、場合によってはバトルメードらしからぬ軍人めいたやしなの雰囲気からすると、かなり路線が異なることは間違いない。そのミスマッチに本人も密かに思うところがあったものを、ずばりと指摘されたやしなは、積み上げられた書類の山が震えるような勢いでばたりとデスクを叩くと、すっくと立ち上がった。

「……よし、分かった。売られた喧嘩は買うわよ。」
「いや、別に喧嘩は売ってないけど。」
「これが喧嘩売ってるんじゃなくてなんなの。挑戦なら、受けて立つ。」
「えーと、まあ、元気が出たならいいけどー。」

 

 

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