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 General cleaning

 

 

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「御大、近隣住民の避難は終了しました。特に混乱はありません。」
「おお、早かったな。やはりバトメ部隊の協力があると、一般民衆には格段に受けがいい。」
「申し訳ありませんが、倉庫内部構造の確認の方が遅れております。」
「そうか、どちらにしても、虎の子の協力者と仲間を拘束されたからには、早晩動きがあるだろう。ブロック塀周囲の細工はもう終わるな。警戒を怠らんように。」
「はっ、了解致しました。」

軍事機密の塊であるウォードレスの製造企業からの横流し、しかも政治家の関与までもが発覚した一連の騒動は、その捜査の最終段階に入ろうとしていた。既に取り引きが行われ、国外へ持ち出されてしまったものの行方は掴めていなかったが、いったん製造側の倉庫から搬出されたWDの一部が、まだ満天星国の内部に残されていることが確認されたのである。自分達の部隊の生命線でもあるウォードレスという兵器に関する不祥事に、危機感を強めていたWD部隊では、民間の倉庫会社に預けられているというドレスの奪還作戦に乗り出していた。

いち早く拘束した共犯者達の供述から、保管中の倉庫の場所と、搬送に国境越えのトラックが使われているところまでは確認されたものの、それ以上の具体的情報は掴めてはいない。口封じの可能性を考慮して多少強引な先手を打って出た以上、相手のアクションも早急に行われることが予想された。問題の民間倉庫周辺に緊急配備を展開し、その網を引き絞る準備を進めていたWD部隊は、偵察班からもたらされた情報に一気に動き出した。

「て、偵察の報告が入りましたっ。荷物倉庫のシャッターが動いているようです!」
「よし、倉庫内で民間人を巻き込む可能性が減ったなら都合がいい。運搬の車体が倉庫から出て、道路に出る前に片を付けようか。工兵の退避を開始、ピケ隊を出せ。民間人の安全確保には手を抜かないよう活を入れといてくれ。これで被害者が出たりすれば、WD部隊の信用は地に落ちるぞ。」
「了解!」
「車種が確認出来たら、シャフトと制動回りの構造確認を急いでくれ、タイヤ強度もな。」

物資の預かりと保管を生業とする企業倉庫は、その性格上当然のことながら、民間としては比較的厳重な構造物で周囲を固めて、高いセキュリティを確保している。特に厳重な正門側からの作戦は不利と判断したWD部隊は、隣接する同じく倉庫会社の敷地を展開場所として押さえ、死角になっている境界線ブロックの陰では工兵達が急ピッチの作業を進めていた。

作戦開始準備の通達が回り、わらわらとその工兵達が退避を始める。偽装トラックで乗り込んでいたWD部隊は、そのトラックから手際よくピケを展開し始めた。小型機械特有の小回りと速度を生かして、歩兵部隊の前方警戒に活躍することが多いピケだが、障害物突破の足回りとしても重宝がられる。側面のブロック塀を一部破壊、これを乗り越えてピケ隊の突入を行うのが、今回の作戦の概要だった。

「御大、工兵の退避と爆破準備整いました。」
「了解した。これより作戦開始。境界線ブロック塀の爆破を許可する。全隊へ通達、我々の手で始末を付けるぞ。これが旧都築藩国部隊最後の作戦だ。」
「はっ!」

 

狭いトラックの荷台に閉じ込められていたピケ達は、暮れかけて緩やかに夜へと向かう夕時の赤い光の中へ次々と飛び出して、自由を取り戻していた。冬の日は直ぐに夜へと移って、万が一トラックを一般道路へと逃がしてしまったなら、追跡は大変困難になり、周辺被害も広がってしまうだろう。この一瞬の攻防戦に、全てがかかっているのだ。
「柊星、向こう側の敷地へ入ってからも、ピケを回せるようにしたい。突入で落ちるなよ。」
「そりゃこっちの台詞だ。俺を落とすな、だろうが。」
「ピケチャを付けられたら、そんなに無理は出来ないよ。」
「てめー、よくもしゃあしゃあとそんなことが言えんな。何度俺を殺しかけたと思ってる。」

その言葉を体現するように、サイドカーにしっかりと身を沈めた柊星に、瑞穂はくすりと笑みを浮かべた。バランスを重視して砲身を外されたピケチャは攻撃力には劣るが、どの道、自国の市街地真っ只中という被害極限を求められる状況では、銃火器類の使用は制限せざるを得ない。トラックの足止めそのものには、門の閉鎖と、ピケを前方に集めた即席バリケードで対応する予定だったが、問題なのは不明確な点の多い現在の状況である。情報の少なさに対処するには、咄嗟の状況に合わせて行動出来る、人間の判断力が必要だった。

その時、爆破音注意のシグナルが、WDの通信網に響き渡った。突破第一陣のピケが、これから出現する入り口予定ポイントへ向かって動き始める。珍しくも第二陣に配置された柊星と瑞穂のコンビは、整列に向かう先行班の中に、数名のバトルメードが混ざっているのに気が付き、その動きを視線で追いかけた。気が付けば周囲からは、一斉にそんな注視が注がれている。
「御大はさすが巧いな。これで士気も絶好調だ。」
「…あの軍仕の司の制服、やっぱ見納めかね。」
「柊星を見事に乗せるんだからなあ、ホントに。」
「うるせー、自分だってさっき、ちゃっかり写真撮ってたじゃねーか。」
「そういえば、やしなさんの姿が…。」

軽口を叩き合っていたその会話を遮り、市街地にはあるまじき重い爆破音が、地を揺るがすように周囲に轟いた。破片を撒き散らしながら煙を吹き上げて崩れようとしているブロック塀に、続けて次の爆発が追い打ちを響かせる。ぽっかりと口を空けたその空間に向かって、鉄骨を押さえ込む分厚い金属性の橋が架けられ、すかさず第一陣のピケ達がそれを渡って乗り込むと、大きく開かれた倉庫のシャッターをくぐり抜け、一台のトラックが正に動き出したところだった。

手筈どおり正門の閉鎖に向かう一群を分けて、第一陣のピケは隊列を組んだ厚みを確保したまま、トラックの前方へと割り込んだ。派手なブレーキ音を周囲に響かせて、食料輸送などの重量物運搬に使われる大型トラックが、辛うじて勢いを止めた。
「な、何の騒ぎだっ!」
ピケに割り込まれるまでもなく、爆破音の時点で既に呆気に取られて硬直していたトラックの運転手は、バイクにしてはあまりにいかついその車体が並んだ中から、軍服とメード服の中間のような、機能的なミニスカート姿が駆け寄って来るのを目にして、本格的に思考を停止した。

「運転手さん、降りて下さいっ! そのトラックは危険です!!」
「えと、積み荷に無許可の危険物が入っている可能性があり、軍部が捜査を行います。ご協力下さいー。」
「ちゃんと許可証ならもらってるぞ。危険物って、そんなものは…。」
「その許可証は偽造の疑いがあるんです。エンジン止めて下さいっ。移動するトラックは、これ一台だけですか?」
きゃんきゃんとまくし立てられて、訳も分からないままに座席からつまみ出された運転手は、バトルメード達の後ろに控えているのが、フルフェイスの得体の知れない容貌のWD兵であることに遅まきながら気が付き、反射的にバトメ達の周囲へと逃げ込んだ。正門の警備所付近でも、似たような問答が繰り広げられている。

無事車体を止めて運転手を確保した先行班は、本当に何も知らない民間人らしい彼らを安全な場所まで退避させ、続いて倉庫内部へと捜索を進めて行った。同じく無関係らしき倉庫会社の社員に、バトルメード達が状況の確認をする間にも、その背後にWD兵が無言の圧力を掛けている状況では、さしたる抵抗もない。他のトラックが移動出来ないよう、シャッターを降ろすようにとの指示にも素直に対応が進み、事態は順調に進んでいるかと思われた。だが、その隙を狙ったかのように、事態は再び大きく動き出したのだ。

降り始めたシャッターの下をかい潜って、もう一台の大型トラックが、耳障りなタイヤの音を響かせながら猛然と動き出した。いったんピケを降り、最初のトラックの内部を改めるべく、周囲に散っていた第一陣の部隊では、二台目の頭を押さえるには間に合わない。動きに対応出来ずに、辛うじて轢き殺されないだけの位置まで退避したWD達を尻目に、そのまま速度を上げ、恐らくは正門を突破するだけの勢いを確保しようとしたトラックは、しかし、最初のトラックに並ぼうとしたその瞬間、ぐらりとよろめいてその進路をねじ曲げられた。

バランスを崩したその巨体は、最初のトラックに向かって倒れ込むようにして横腹をこすり合わせ、金属の噛み合う不快な大音響を周囲に響かせた。それにさらに念を押すかの如く、空を切り裂くような甲高い射撃音が二度三度と続いて、トラックはばたりと反対側へ重心を崩して、やや前のめりになって完全に停止した。偵察班と共に予め高さを確保して待機していたやしなのライフルが、前輪全てのタイヤを撃ち抜いたのである。

柊星達の第二陣ピケ隊が、即席の橋を乗り越えて現場へと乗り込んだのは、ちょうどその時だった。折り重なるようにして止まっている二台のトラックを目にして、瞬時に状況を把握した瑞穂は、他のピケ達が運転手を確認するべく前方へ回るのを無視して、直感的にトラック背後へと回り込んだ。その目前に、まるで示し合わせたかのようなタイミングで、ばたりとトラックを背後の扉が開かれた。二台目のトラックの中からその姿を現したのは。

「出たっ、天陽だ!」
「…やっぱりそうか。本部、天陽が二体トラックから出て車体後方で行動中。」
日没間際の赤い薄明の中で、人間よりも一回り大きな二つの赤い人影が、ゆっくりと車体から身を乗り出した。相手が生身の人間なら対応の方法はいくらでもあるが、高機能と速度を誇る主力WD天陽を相手にするには、如何に本家のWD部隊と言えども一筋縄ではいかない。単にWD搬出の押収に対応するには、あまりにも大掛かりな今回の作戦は、この事態を警戒してのことだったのだ。

「柊星、一度後ろを通過するから、トラックの中に残ってないかを確認頼む。」
「分かった。銃火器持ってれば、周囲をちょろついたら仕掛けてくるかもな。」
「製造が別会社の装備まで、流れてて欲しくはないけどね。専用じゃない武器の調達なら、どうにでもなるからな。行くぞ。」

唸りを上げて近づいてくるピケに、二体の天陽は即座に気が付いたようだが、その長い手も届かないギリギリの距離を通過してゆくピケをなめているのか、特に攻撃を仕掛ける様子もない。こちらも一応銃火器の装備はあるものの、市街地であることの難しさから、発砲は待つように通達されている柊星達は、一度は傍らを擦り抜けてから反転し、ライトでトラックの内部を照らし出しては、また反転をかけて牽制を繰り返した。

「…他に動いているWDは、今のところ見えねー。」
「〈瑞穂、私だ。ARを生かして脱出されると、WDのサイズでは追跡が難しい。発砲せずに足止め出来るか。方法は任せる。〉」
「…了解です。聞いたか、柊星。」
「おっ、今日のタヌキは話が分かるな。どの手でいくか。」
「多少手荒でもいいだろう、ワイヤーにしよう。問題はタイミングかな。」
「天陽を着てれば、死にゃあしない。スペック知り尽くした俺達をなめてんじゃねーぞ。」

再び走り去って距離を取ったピケを警戒しながらも、二体の天陽は周囲を伺いつつ、行動を起こそうとしていた。トラック内から外の様子を把握出来ていたのかどうか、少なくともトラック前方に見える他のピケ達が集まってくるよりも前に、脱出を始めようとしたらしい彼らは、一度は離れたピケが、自分達を真っ直ぐライトで照らしながら、即ち一直線に向かって来るのに気が付いて、思わず身構えた。

車体反転時のバランスに不利があるバイクの牽制に、トラックの周囲からぎりぎりまで離れずにいようとした彼らだったが、この二人の相手では、それは見事に裏目に出ることになった。速度さえ保ったまま、恐れ気もなく、ピケは一目散に突っ込んで来る。体当たり攻撃かと狼狽えた二体の天陽の目前で、だがそのピケは、何かが撥ねるような機械音を引いて車体とサイドカーの連結を切り離すと、きれいに左右に分離したのだ。

虚と突かれた天陽達に、予想外の衝撃が襲いかかったのはその直後だった。目には見えない強大な力に弾かれたように、背後のトラックへと弾き飛ばされる。彼らはそのまま、腕から身体までを押さえ付けられぐいと引き絞るような力を受けて、その痛みに顔を歪めた。人口筋肉の防御服であるWDが無ければ、身体を切断されてしまいそうな鋭いその圧力の正体は、左右にびんと張り詰めたワイヤーロープであることに彼らが気が付いたのは、完全にその動きを封じられた後のことだった。

ピケとピケチャをパージする時に、間にワイヤーを渡し、車体が走る勢いを持って拘束する。実を言えば、WD部隊内では半ば伝統のように継承される幾つもの技のひとつなのである。互いの能力を知り尽くした部隊内での悪戯まがいの訓練合戦は、傍から見れば手品のようにあくどい技術の集積とも言えるだろう。

パワーを誇るさすがの天陽も、手際よくピケの重量を利用して固定されたワイヤーから逃れることは出来なかった。それでなくとも、中の人間に対してどの程度の衝撃があるのか、その手加減すらWD部隊の人間は知り尽くしている。遅まきながら次々と駆けつけるピケ隊を前に、観念したかのように動きを止めた二体の天陽は、同じ天陽に取り囲まれて無事無力化された。

一方、自力では走行出来ないピケチャからの脱出に微妙に失敗し、何とかワイヤーの固定までは成功したものの、その場で引っ繰り返っていた柊星は、きれいな顔立ちに、擦り傷ひとつ作らない余裕の表情で近付いて来た瑞穂に向かって、地面に大の字のまま抗議の声を上げた。
「おい瑞穂、減速に手を抜きやがったな。」
「え、いや、やっぱ逃げられたら困るしね。」
「てんめー、また確信犯かっ!」

 

 

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