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Oldest Trick in the Book Vol.1

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 Burnt Offering

 

 

***   Oldest Trick in the Book   ***

 

Vol.1

「…オッケ、間違いねーな。まずはこの部屋だ。」
チーム内専用回線に響いた柊星の呟きを聞いて、王島は一瞬驚きに声を失い、応答を返し損ねた。充実したセンサー環境に映し出された映像の中には、巨体を無理矢理小さく縮めたように低く身を屈めた姿勢の、柊星のドンファンが映し出されている。
「……何度自分の目で見ても驚くな。確かにブラッドハウンドのあだ名は伊達ではない。」
「ああ? この状況で俺に喧嘩を売るってのも結構驚きだぜ。」
滅多に聞かれない上機嫌な口調で軽口を叩き返しながらも、柊星は自分の手を休めることなく、壁に空いた穴から室内へと差し込んだセンサーの情報確認を続けていた。

長らく研究施設として使われていたが、老朽化の為に建替えが決まったという建造物は、既に必要なものは何もかも持ち出されて空っぽの状態になっている。内装さえもあちこち引き剥がされた寒々とした姿を晒して、取り壊しを待つばかりのこの施設の使用権を手に入れたWD部隊は、実戦さながらの合同演習に臨んでいる真っ最中であった。研究施設という性格上、周囲に大きく敷地を確保している立地条件を生かして、本物の建物内への侵入という現実的想定の訓練を、可能な限りリアルな戦闘行動として行おうというのである。より正確に表現するなら、手に入れたのは使用権ではなく、破壊権というべきかもしれなかった。建物の取り壊しから廃材の撤収、整地までを軍が請け負うという条件で、通常では間違いなく許可が降りそうに無い威力規模の武器弾薬類を投入するという、これでもかと言いたげな荒っぽい演習内容が次々と進められていた。

幾つかのパターンを想定してチームごとに与えられたミッションをこなしつつ、そして周囲を壊し放題で消化されてきたその訓練も、彼らのチームで終了となる。人質奪還作戦を命じられた柊星と瑞穂、そして最近ではすっかり彼らコンビのお目付け役として定着してしまっている感のある王島というスリーマンセルは、今回の演習でも最高ランクの難易度を要求されていた。しかも、大半の隊員が既に自分達のオーダーを終えてしまった無責任さも相まって、周囲の注目度も最高潮といった状況のはずである。だが、それなり大規模な建物内に配置されている攻撃対象を、事前情報無しのノーヒントで発見という最初の課題は、先行偵察のために建物内に侵入した柊星と王島によって、最短突破速度の記録を作れそうな順調さで進行していた。

「いや、喧嘩を売ってる訳じゃない。純粋に感心しているんだ。ここまで、ほとんど一本道で移動してきたんだぞ。どうやったらこんな芸当が出来るんだ。」
「建物の構造見りゃ、如何にも隠れたそうなところは直ぐ分かんじゃねーか。」
その言葉を聞いて王島は反射的に、すっかり身体に刷り込まれた周辺警戒のパターンに従って、自分達の周りに意識を走らせた。密閉型で複数の視野カメラを搭載するドンファンの視界は、足元の柊星の姿を確認するのと同時に、その周囲に天井の建材が引き剥がされて、空調のダクトやら配水管らしきパイプやらが何本も走る天裏が剥き出しになった、薄暗い殺風景な廊下が真っ直ぐに伸びた光景を捉えている。そこに並ぶ如何にも研究室らしい、無個性で同じ顔の幾つものドアを眺めながら、思わず王島はため息をついた。

「いや、普通そんなことは分からんだろう。この建物内に入ってから一体幾つドアを通過してきたと思ってるんだ。センサーで内部確認までしたのは、これが最初なんだぞ。つくづく、お前を敵に回したくはないな。」
「そうか? 手強い奴ほど、敵側にいてくれた方が面白いんじゃねーのか?」
口ではそんな台詞を返しているとは言え、柊星は十分に王島とのコンビプレイを楽しんでいるようだった。全ての室内をしらみ潰しに捜索する余裕が無い以上、最初の捜索はある程度山勘に頼らざるを得ない。安全性を確認して自分達の足掛かりを確保後、そこから再度捜索を拡げるか、もしくはあえて騒ぎを起こすなどの展開を想定していたのである。その命運を分ける選択を、王島は何の躊躇もなく柊星の判断に完全に一任していた。柊星の能力を信頼してというよりは、他の選択肢は無いという検討を十分に尽くした上であれば、状況打破のためギャンブルに出ることに全く迷いが無い王島の度胸を、柊星としては気に入っていたのかもしれなかった。

「…室内の人数が確認出来るか。」
「足音がするのは、たぶん8人。前方3に後方が5。お宝があるなら、一番後ろってとこだろう。どっちにしても全く動いてなければ、集音センサぐらいじゃ確認出来ないしな。」
「8人、ドンファンが投入されているかどうか、というところか。室内に人質も一緒にいるのかどうか…。」
「いや、いねぇんじゃねーの。そう簡単に終わりとも思えねーし。」
「…おまえの鼻で無ければ、ここまで辿り着くのもそう簡単では無いと思うぞ。」
「どうせヒント情報でも配置して、あちこち振り回すつもりなんだぜ。つーか、俺は敵を探せと言われれば何とかするつもりはあっけど、人質探せとか言われたって自信ねーぜ?」
「成程、如何にもお前らしいな。」
「肝心の人質の情報がブランクじゃ、WD着せられてるとか言うと厄介なんだよな。ったく、プラン組む奴の性格悪りーと面倒臭せぇったらねーよ。」
「その言い草は無いだろう。御大にどれだけご面倒をお掛けしているか、少しは恩義というものを感じたりはせんのか。」
「……けっ。」

この状況にも拘わらず、例によって説教を始める生真面目な王島の言葉に、憎まれ口を返しながらも、柊星の声にはどこかしら、笑みを含んだ楽しげな雰囲気が漂っている。これは少しは御大に感謝の気持ちを抱いているということなのか、それとも、余りにも戦闘が好きで浮かれている躁状態なのかと、一瞬王島は真剣に考えてしまった。
「…あ、まあ、ともかく向こうがこちらに気が付く前に、先手を打とう。室内に障害物は在りそうか。」
「いや、比較的広い空間に、きれーに音が反響してる。バリケードは無さそうだな。お宝の周囲が囲まれてたりするかは分からねぇ。あんま感度のいいセンサを使ってノイズ拾われたりすると、向こうに気が付かれるかもしれねーし、どうすんだよ。」

やり合う双方が感覚の高さを誇るレコンというこの状況では、相手を一歩先んじて捕捉しているというのは、大変貴重なアドバンテージとなる。WD流出事件の後始末に奔走した功績により、少将に昇進したばかりの杉宮が総指揮を取っている今回の作戦では、敵味方双方が底力を発揮することが求められるような、戦力バランスの拮抗した配置が組まれていた。
「まさかこの短時間で到達すると思ってはいないだろう。情収に拘るより、この機を逃さず動くべきだと思うが。」
「へっ、おっさん、ホントは結構過激なんじゃねーの。」
「…む、何となく瑞穂の気持ちが分かったような気がするぞ。確かに、お前に言われたくはないものだな。」

 

 

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