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Oldest Trick in the Book Vol.8

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 Oldest Trick in the Book Vol.7

 

 

***   Oldest Trick in the Book   ***

 

Vol.8

「んな便利なもんがあるなら、さっさと映像データ流しやがれ。」
「<残念ながらそこまで便利でもないね。屋内分は中央処理を止められたら、使い物にならないし。屋外装置は無線が多いから、まあ、電源さえ残ってれば何とか。>」
「そうか、たらし込んだな。そんで時間喰ったんだろ。」
「<たらし込むなんて、人聞きの悪い。それに、決定的瞬間には間に合ったんだから、問題ないじゃないか。>」
「突入の役には立ってねぇよ!」

渾身のフルパワーを振り絞り、敵ドンファンと機械椀を押し合う王島機の後方で、瑞穂と相変わらずの会話を展開しつつも、柊星は滑らかな身のこなしで、自機の体勢を立て直した。姿勢制御の難しいドンファンの巨体で、宙を飛んだ挙げ句にごろごろとでんぐり返しをやらかしたりたのである。並のWDダンサーなら、壁や床面に手足を突っ込んで動けなくなるか、脳震盪を起こして朦朧としていてもおかしくはないところだが、柊星にそんな様子は微塵もない。自分が飛び込む為の距離把握に使った、シーカーからの映像に、遠い向こうから光の差す静かな廊下の映像だけが映っているのを、ちらと確認して、柊星は改めて王島の背中に目を走らせた。二体のドンファンが動きを止めた為に、瑞穂の映像解析処理は既に、照明があるのと同じ鮮明さの視覚データを表示している。見た目としてだけなら、静かに止まっているような二つの巨体の間で、凄まじい力の軋む攻防が繰り広げられている気配を見て取って、柊星は思わず、その口元をにやりと歪めて笑みを作った。

「おっさん、そのままタイマンで押し通るか。おっさんの腕なら倒せんじゃね?」
「<おい柊星、いい加減にしろって。>」
「だって名勝負に水差したら、わりぃじゃんかよ。」
「……柊星、時間が無い。」
「だから、空をショートカットで随分短縮したぜ。あんまいいタイムでクリアすると、次の演習で何されるか、分かったもんじゃねーよ。」
口ではそう憎まれ口を叩きながらも、柊星は油断なく組み合った王島達の状況を確認しながら、素早く廊下を進み始めた。やや天井が高くはあるが、通常の人間サイズに合わせた廊下の空間は、ドンファンのサイズには狭すぎる。長い機械椀を振り上げるだけの高さは一応あるものの、王島機の背中は、廊下の横幅を占拠してしまっていた。この状態から、向こう側の敵ドンファンに手を出すのは、意外に難しい課題である。

「…瑞穂、このドンファン、会議場内とチーム通信してるよな?」
「<もちろんしてるね。さっきから挑戦してるけど、残念ながらこれのデコードは、時間内には無理だと思う。>」
「時間掛けたら出来んのか、恐ろしい奴。」
「<ターザンには言われたくないなあ。>」
「けっ、まあいいや。おっさん、こいつ仕留めたら、そのまま俺はノンストップで会議場へ雪崩れ込む。あんま遅れると、会議場内がどうなるか責任持たねーかんな。」
「……この状態から、どう仕留める。」
「ちょっとバランス崩させたら、おっさんなら余裕だろ。後始末は任せるぜ。」
そう言いながら柊星は、王島の背後まで少しの距離を残して立ち止まると、壁際に寄って王島機の向こう側を覗き込んだ。機械椀を振りかざした前傾姿勢で組み合う二体のドンファンは、互いの脚部が最も離れている。その一番奥で、凄まじい圧力を支えて踏み締められた敵ドンファンの軸足に狙いを定めた柊星に、やや緊張の走る瑞穂の声が届いた。

「<柊星、単独行動に走るな。チーム演習なんだ。>」
「…るせーな、自分のノルマ果たしてりゃ、文句ねーだろ。」
「<おい、柊星! 行動プランの説明を…。>」
小言を言い立てる瑞穂の通信を無視して、柊星はそのまま、次の攻撃へと動き始めた。組み合った二体のドンファンの隙間から、睨み付けたままの敵ドンファン脚部に向かって、渡り廊下の代わりにドンファン達を支えた、ワイヤーロープの発射装置を構える。
「……おっさん、動くなよ。」
ぼそりとした声が辛うじて王島の耳に届いた瞬間、返事も待たないまま、柊星はいきなりワイヤロープを発射した。鍵フックの取り付けられた強靱なワイヤーは、弾丸のように宙を走って、狙い違わず敵ドンファンの脚部に絡み付く。柊星のドンファンは、間を置かずに流れるように腕を動かして、敵の脚に絡んだワイヤーロープの反対側を、もう一度射出装置にセットすると、続け様にそれを解き放った。

高速の物体が走る風切る音に、組み合ったドンファン達がはっと我に返ったその次の瞬間、間髪を入れずに再びの甲高い音が鳴り響いた。王島の突進を辛くも食い止めていた敵ドンファンは、その巨体を支えて踏み締めていた脚に、違和感を感じたその直後、今度はぐいと斜め後方に引き寄せられる羽目に陥った。ワイヤーロープを打ち出す程度では、実際には大した力では無いのだが、全出力を総動員したバランスに与える打撃としては、遙かに大きなものとなる。重心をかくりと落として、滑るように沈み込んだ敵ドンファンに、王島はすかさず上からの圧力を掛け、轟音を響かせながらその巨体を完全に床へと墜落させた。

その王島機の横を風のように擦り抜け、柊星のドンファンが前進を開始した。阻む者の無い廊下を一瞬で突破すると、柊星は無造作に、背の高い会議場の扉に手を掛けた。人間になら威圧感を誇示するのであろう縦長の扉も、ドンファンの長身からすればちょうど良い高さである。それなりの重量がある扉の開閉に為に、機械的な補助が組み込まれているらしいゆったりとした動きで、観音開きの大きな扉が両側へと開かれる。動いている扉の影に、形ばかりセオリー通りの動きで身を潜めた柊星は、扉が開き切ると同時に、素早く会議場の中へ足を踏み入れた。その瞬間、瑞穂から送られていた解析データが途切れたのか、ドンファンの内部に映し出されるモニター画像は、急激に荒くなり、再び不鮮明な暗視装置のレベルまで落ち込んだ。
「<…柊星、聞こえるか。やっぱりデータのリターンが悪い、迂闊に動き回るな。>」
瑞穂の通信は一応聞こえているものの、その音声もかなりの雑音混じりである。扉から奥へ進むと聞こえなくなるのではと考えながら、柊星が階段状の座席配置を確認しようと、視線を上に走らせたその視界で、何かが動いた。

右側に設えられた演台の上の空間で、何かが動いているのだ。まさか動く鳥籠なのかと、半ばうんざりしながら映像を確認した柊星は、ちょうど大型のピケ程のその物体から、長い二本の脚が床へと伸びているのに気が付いた。演台の両側を踏み締め、すっくと立ち上がった何物かを見上げながら、柊星は唸り声のような言葉を絞り出した。
「……なんだ、こりゃ。」

 

 

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