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Oldest Trick in the Book Vol.13

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 Oldest Trick in the Book Vol.12

 

 

***   Oldest Trick in the Book   ***

 

Vol.13

「いや、だってほら、壁じゃないし。外側のガラスは外されてて、ブラインド・スクリーンだけになってるのが確認出来たからじゃないか。」
「ここまで素っ飛んで来なけりゃ視認なんか出来ねーだろーがっ。」
「確認してから突入を決めたし、衝撃危険算定もやってる。手順は間違って無い筈だ。いくら俺でも、人質を危険に晒すような突入はやらないよ。」
「てめ、あの進路にあの速度で突撃かましてその言い草か。俺の危険算定は何処に入ってる。」
「うーん、減速しなかったのは認めるけど、まあ緊急事態だったし。強行突入で下手に手加減する方が、建物も危ないんじゃないのかな。それに、迂闊にチーム内で連絡を取り合うと相手に動きがバレると言ったのは、柊星だよね。」
「……そのしれっとした確信犯で、一体何回俺を轢き殺し掛けたと思って…。」

一瞬にしてやかましい舌戦が戻ってきたのを、半ば呆然と聞いていた王島は、はっと我に返ると、慌てて頭上を振り仰いだ。ピケ・パンツァーの突入によってブラインド・スクリーンが粉々に引き千切られてしまった為に、会議場内はすっかり明るくなって、天井の真ん中にぶら下がった無骨なポッドも、はっきりと視認出来る。目視で確認する限り、ポッドに大きな支障があった気配は無く、王島は固まっていた息を思わずほっと吐き出したが、とはいえ、真下から見上げたところで、中の様子が確認出来る訳では無い。取り敢えずの無事を目にして安心したような、それ以上は何も出来ないもどかしさに、逆に急き立てられるような、複雑な気持ちを持て余す王島を、まるで叱責するかのように、ドンファンのワイヤーが不意にぐいと引き寄せられた。虚を突かれた王島は、床を滑って引きずられそうな足元を、客席を足場に踏み締めて何とか堪えながら、改めて鉄のダチョウの姿を振り仰いだ。

柊星が自分のワイヤーを放棄してしまった為に、ようやく両足を揃えることに成功した鉄の鳥は、その通称通りの青く光る機体を、斜めに差し込んだ陽光に晒し、自由を取り戻すために動き出そうとしていた。今のダチョウを辛くも繋ぎ止めているのは、王島のワイヤーだけなのである。瑞穂が通信妨害の障壁を突破して、再び送られ始めた豊富なデータ群は、ダチョウの姿を、改めてあらゆる角度からドンファンのモニターに描き出そうとしていた。一般的な視覚映像に加え、さらに赤外線が捉えた熱量データを重ねられたピケ・オーストリッチは、まるで明るく揺らめく炎を吹き上げているかのようにも見える。
「柊星、文句は後でゆっくり聞くから。ピケ・パンのワイヤーは頑丈だけど、単純に打ち出すぐらいしかコントロール出来ないんだ。」
「ちっ、鳴り物入りで飛び込んできたって、役に立たねーじゃねーか。ダチョウのコントロール分捕るとか出来ねーのかよ。」
「やってもいいけど、相当時間を喰うよ。ピケ・パンのコントロールは、チーム内通信の暗号化よりは複雑なんじゃないかと思うし。」
「…まさか時間掛けりゃ出来るとか言うのか、おい。」
「王島さん、人質のポッドを吊り上げてるのは、やっぱりカメラ用のクレーンです。ここまで接近すれば遠隔操作はハック出来ます。内部に人間1名分程度の熱源を確認。後は、このダチョウをどうにか捕獲すれば。」
「…了解した。コントロールの奪取は任せる。」
「はい、既に取り掛かってます。ほら、急げよ、柊星。」
「……一番恐ろしいのは誰なんだ? ったく…。」

口ではぶつくさと文句をもらしながらも、柊星は既に行動を開始していた。まるで、瑞穂の機体に近寄るのは御免だとでも言いたげに、観客席の通路を辿って会議場を横切ると、王島の脇を擦り抜けるようにして階段を駆け下る。
「瑞穂、狙いは適当で構わねーから、ピケ・パンからワイヤー射出、壁にぶち込んでくれ。」
「単に撃ち込んだだけじゃ、支点にするには壁材の強度が足らない。すっぽ抜けるよ。」
「それでいいんだ、ドンファンで引き抜いてダチョウへ持ってく。下手に柱構造とか狙うなよ。」
「了解、ダチョウの後ろを通す。」
「おっさん、そのワイヤー、力任せに引っ張っちまえ!」
「しかし、それでは強度が持たんぞ。」
「だーからそれでいいんだって。」
「…む、そうか。了解した。」
「頼むぜ、おっさん。重量級の本領発揮だかんな!」

 

 

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