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Oldest Trick in the Book Vol.14

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 Oldest Trick in the Book Vol.13

 

 

***   Oldest Trick in the Book   ***

 

Vol.14

柊星がそう叫び返しながら観客席を降りきって、会議場の底を入口方面へと走り出すと、それにぴたりと合わせたタイミングで、ダチョウの背面を、瑞穂のピケ・パンが発射したワイヤーが走り抜け、入口横の壁面へと突き刺さった。先程の突入のインパクトに較べれば、随分と可愛いものではあるのだが、低音の尾を引いた衝撃音が天井の高い空間に轟いて、王島は思わず、首を竦めるようにして天井方向に視線を彷徨わせた。だが、王島はそのまま、本能的な反応で天井のポッドを見上げようとする自分自身の手綱を引き絞ると、もう一度ダチョウの巨体を見上げ、視線を定めた。ワイヤーの強度を考慮して慎重に制御していた機械椀のそのパワーを、構わず一気に解き放つ。人工タンパクの塊を束ねた、隆々たるドンファン全身の筋肉が、それに呼応してさらに膨れあがるように縮み始めた。テンションを一定に保つことに徹していた王島機が、いきなりワイヤーを力任せに引き寄せた為に、ピケ・オーストリッチはぐらりと一瞬だけよろめいたが、直ぐさまぐっと両足を踏み締め、その引力に抵抗し始めた。ピンと張り詰めたワイヤーがきりきりと音を立て始めても、王島は構わず、さらに強引にワイヤーを引き寄せた。次の瞬間、終にワイヤーは甲高い断末魔の悲鳴を上げた。びぃんと空を弾いてワイヤーは千切れ飛び、力任せに引き寄せていたそのパワーの支点を失って、王島機は弾かれたように背後へと投げ飛ばされる。

それは、頑強な鉄のダチョウにしても同じ事だった。爪の生えた鳥足を、前方へとつっかえるように踏ん張って、重心を後方へ預けていたダチョウは、その足を固定していた王島のワイヤーを失い、反動で背後へと大きくバランスを崩した。戦場での不測の事態に備えて、巨大重機に類するこの種の兵器には、必ず条件反射的な安全装置が組み込まれている。赤外線視界に赤から白への炎を吹き上げながら、鉄の鳥に組み込まれた反重力の見えない手が、機体を支えて踏み止まらせた。その足元を、壁から引き抜いたピケ・パンの図太いワイヤーを携えた柊星が、瞬間で走り抜けた。重力制御機構が機体重量を持ち上げてしまったために、反射的に浮き上がったダチョウの左足に、手品のような早業で、頑丈なウィンチ用のフックを絡み付かせる。柊星のドンファンが一撃離脱の素早さで後退すると、今度は、瑞穂の大型ピケが同じように炎を上げながら、ドンファンのワイヤーよりも遙かに太い炭素繊維の綱を巻き上げ、容赦なく引き摺り寄せた。

同じ重力制御のエンジンを持つピケ・パンツァーが相手では、さすがの鉄のダチョウも、バランスを欠いた体勢から抵抗するのはかなりの難題である。状況を何とか打開しようと、残った右足を後方へ流して踏み締めようとすると、今度はその足がさらに後方へと浮き上がるように引き寄せられた。柊星のワイヤーが、辛うじて鉄の鳥のバランスを支えた右足を、さらに後ろへと引き摺り寄せていたのである。鉄のダチョウが、その長い足を、前後へと一杯に開かれた状態で固定され、為す術もなく動きを停止すると、ドンファン達の内部に、場違いに軽やかな電子音のチャイムが鳴り響いた。
「ダチョウの確保、認定されました。カウントダウン始めます。」
「だーっ、瑞穂のテンカウントは俺の寿命が縮む。おっさん、頼んだ。」
「酷いなあ。ま、ここは王島さんにお任せしますよ。」
「あ、ああ。了解した。」

観客席を幾つも薙ぎ倒しながら転倒していた王島は、ドンファンの機体をようやく立て直すと、ドンファン内部のモニターに表示された秒針を律儀に確認しながら、カウントダウンの声を上げ始めた。すると、その声に呼ばれたかのように、天井のポッドが軋みを上げて動き始める。
「王島さん、クレーンのコントロールも奪取成功しています。ゆっくり降ろしますので、テンカウントよりはもう少し掛かるかな。」
「お、これでやっと人質の顔が拝めんな、おっさん。」
にやにや笑いが目に見えそうな瑞穂と柊星の声もそっちのけで、王島は天井を振り仰ぎ、ポッドの動きを追ってあたふたと細い通路をかき分けた。上の空のカウントダウンが途切れても、緩やかに宙を動いていたピケ・パン用のポッドは、王島がその元へと辿り着くより少し前に、慎重な動きで観客席の間に身を沈めた。ポッドはキャノピーとして使う、虫の眼のような透明の蓋に覆われていたが、その向こう側にひょこりと、くせの強いミディアムヘアの頭が現れた。

「な、な、なつきさん!!」
最後の距離を客席を踏み潰さんばかりの勢い踏破し、ポッドへと接近した王島は、その彼女の口元が、大きなバッテンを書かれたマスクで覆われているのに気が付いた。ヒントとなるような発言を、禁止されているという意味なのだろう、猿轡の代用のようなそのマスクを見て、王島は思わず、むうっと口元を引き結んだ。有能なハイ・バトルメードとして、WD部隊内でも名の知れたなつきではあるが、こんな狭いポッドの中に閉じ込められた挙げ句、長時間宙吊りにされたのでは、相当なストレスの筈である。足早に接近した王島は、無意識のままドンファンの小腕を伸ばして、キャノピーのロック装置を解除した。
「あっ、王島さん、まだ…。」
緊張の響きを含んだ瑞穂の声は、王島の耳に届いていなかった。狭いポッドの中でも何とか立ち上がれる程の身長のなつきは、ドンファンから見下ろすと、さらに小さく見える。その手足が縛められていないことを確認し、辛うじてほっと息を吐いた王島は、相手には見えもしない自分自身の表情を、せめて穏やかにしようとして逆に緊張しながら、跳ね上がったキャノピーの向こうへと、精一杯に優しい声を掛けた。
「…な、なつきさん、お怪我は…。」

なつきは、開いていくキャノピーの動きがもどかしいとでも言いたげに、限られた空間一杯に伸び上がるように、王島を見上げていた。口元を覆われたために、いつもよりもさらに大きく見える黒目がちの瞳が、真っ直ぐに王島を見詰めている。頭上を覆っていた透明なキャノピーがようやく開ききって、改めてピンと背筋を伸ばしたなつきは、素早い動作で自分のマスクをむしり取った。
「なつきさ…。」
バッテンのマスクの向こうから現れたなつきの唇が、可愛らしくきゅっとすぼめられる。本能的な反応で胸を高鳴らせた王島の耳を、全くの予想外のなつきの声が貫いた。
「ブブー、人質周囲の危険確認作業が実行されていません。ペナルティが発動、演習課題が追加になります。建造物破壊想定の砲兵部隊総攻撃まで600秒、待避ミッションを開始して下さい。」

 

 

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