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Oldest Trick in the Book Vol.15

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 Oldest Trick in the Book Vol.14

 

 

***   Oldest Trick in the Book   ***

 

Vol.15

「なーんーだーとぉっ!!」
「えっとー、つまり罰ゲームですねっ。無駄口叩いてないで、行動を選択した方がいいと思いまーす。」
「……すまん、俺のミスだ。」
「いえ、情報収集は俺の担当ですし、俺達も気が緩んで反応遅れました。御大がプランニングした課題で油断したのは、チームとして痛恨のミスですが。」
「つまり何もかもあのタヌキが悪りぃ!」
「にしても、600秒は厳しいですね…。」
「瑞穂、ピケ・パンを脱出用に動かせるか。お前となつきさんだけでも…。」
「えーとー、砲兵部隊は我々の敵勢力の想定ですしー、砲撃指揮はやしな先輩なので、それは止めた方がー。」
「げっ、冗談じゃねぇぞっ。」
「うーん、600秒で射程外までの待避は無理ですね。いくら俺でも、やしなさんの銃口目前をふらふら飛ぶ度胸はないな。」
「しかしピケ・パンで無理なら他に方法は…。」
「えっとですねー、ヒントはー。」
思わせぶりななつきの言葉に、会議場内に存在する全ての眼と頭とセンサーとが、一斉にぐるりと回ってなつきの顔を注視した。なつきは、自分の台詞の効果に満足したように満面の笑みを浮かべると、声高らかに神託を告げた。
「私がちっちゃいことです!」

/*/

「突入演習にてペナルティ発動確認、追加課題を開始する。砲兵部隊は予定通り600秒で第一波砲撃を開始、準備急げ!」
凜としたやしなの声が演習場に響き渡ると、ややのんびりと最終のチェックを進めていた砲兵部隊の隊員達は、大慌てで攻撃開始の準備に動き始めた。元々このペナルティが無くても、王島達の演習終了後、砲兵部隊は建物の構造強度等を織り込んだ実戦的砲撃演習を行う予定だったのである。既に綿密に設計されている攻撃の内容に変更は無かったが、どんなに作業を詰め込んだところで、輸送や設置にある程度の時間を必ず注ぎ込まなければならない砲兵部隊にとっては、スケジュール変更に如何に対応するのかもまた、重要な課題だった。戦況に即して開始時間が前倒しになるという設定は、正に現実的な演習と言えるだろう。面白半分な悪ふざけのように見えながら、その実用意周到に構築され、綿密に絡み合った本物の戦場さながらの演習シナリオに、やしなは改めて、杉宮という人物の底知れ無さを感じ、その眼差しを鋭くした。

ライフル狙撃の名手として、藩国部隊の中でも知られているやしなだったが、綿密な弾道計算を組み込んだ砲撃設計を得意としていることも、部隊内の一部では有名な事実だった。特に建物構造や建材の強度までを考慮して、破壊規模をコントロールする特殊な市街戦砲撃は、知識を持つ者そのものが数少ない、高度に専門的な分野である。詰まるところ、シミュレーション計算のエキスパートである瑞穂が演習の当事者である為に、代わりに引っ張り出された形のやしなだった。いくら知識を持っていると言っても、現在の所属としては部外者である筈の自分自身も、体良く担ぎ出された感が拭い去れないやしなは、忙しなく動き回る砲兵達に厳しい視線を彷徨わせた。演習最後を締め括るお祭り騒ぎに、派手な打ち上げとして建物破壊を許可されたのと、中に部隊員を残した計画砲撃では、要求される緊張感には雲泥の差がある。建造物の構造から強度まで、入手できる情報は全て織り込み済みの完璧な砲撃プランを立てたところで、それを実行出来るだけの練度が無ければ、単なる机上の空論よりも質の悪い事態になってしまう。会議場部分の破壊規模だけを低減させるという、特殊中の特殊と言える条件を要求された砲撃計画を、もう一度脳裏に展開しながら、準備状況の進行を確認するやしなの背後から、すいと音も無く人影が近付いた。

「準備の進み具合はどうかな、やしな君。」
さすがのやしなも、予想外のその声に一瞬背筋を硬くした。確かに神出鬼没で名を馳せる杉宮少将ではあるが、これだけの規模の演習総指揮官が、よりにもよって最前線を歩き回っているのでは、お目付の副官達も相当苦労していることだろう。そんなことを考えながら、やしなは辛うじて、平静な声で返答を返すことに成功した。
「…はい、予定通り第一波砲撃は目標本館部分、600秒のカウントダウンを行っていますが、それよりは少し遅れるかと。第二波新館部分への砲撃は、第一波開始から300秒プラスを想定しています。」
「ふむ、まあそんなところだろう。」
「…御大、一言申し上げたいのですが、よろしいでしょうか。」
「何かね、やしな君。」
「やり過ぎです。」
驚かされた意趣返しとばかりに、やしなはぼそりと短く、低く押さえた声を投げ掛けた。ペナルティの内容は、今のところ具体的に他チームには公表されていなかったが、もちろん演習に携わる上層部には報告されるだろうし、内容が内容だけに、口さがない者達の噂を防ぎきることも難しいのではと思われた。王島の性格とこれまでの態度とを考えれば、無理からぬ事ではあるが、今回の彼のミスは、今後とも彼に付きまとうことに成りかねない。王島の経歴にわざわざ傷を作るようなやり口は、杉宮の主義に反しているとしか、やしなには思えなかったのだ。

「そうだな、確かにやり過ぎだ。」
「…御大。」
だが、杉宮少将は同じように低い声で、さらりと答えを返した。思わず反射的に、非難の響きを隠しきれない返答を返してしまったやしなに、一拍の間を置いて、杉宮は低く抑えながらも、不思議に耳に届く声で言葉を続けた。
「…王島は、戦場に失い難い者を伴うということを、学ばねばならん。あれの苦悩は、これからもっと深まることになるだろうが。」
その余りに静かな言葉に、やしなは一瞬息を飲んだ。それから、ゆっくりと重い呼吸を胸に満たし、何かを刻むような声で返事を絞り出した。
「……はい。」
「だがそれは、戦場に赴く誰もが同じように学ばねばならん事だ。彼の選択は演習としてはミスだったかもしれないが、それでも、間違ってはいなかった。王島のような人物こそが、それを皆に教えるだろう。」

/*/

最初の砲撃は、予告された時刻よりも僅かに遅れて始まった。王島と柊星とが最初に侵入した、実験室の立ち並ぶ本館部分に対して、問答無用の砲撃が火を噴いたのだ。建造物のどの部分にどの程度の強度の支柱が並んでいるのか、その情報さえ入手出来れば、演習として許される規模の砲撃でも、最大限の破壊規模が実現出来る。地を揺るがす重低音を轟かせながら、建物階層の天井を支える支柱を集中的に攻撃された研究室達は、さほどの時間も保たずに、さらに巨大な地響きを蹴立てながらぐしゃりと潰れ、向こう側の新館の姿をさらけ出した。その新館内部に、未だ演習中の隊員が取り残されているという状況に、砲兵部隊の緊張は急激に高まったが、指揮を任されたやしなは、欠片の躊躇も無く砲撃の開始を宣言した。破壊規模を限定する建物攻撃では、どの程度の衝撃を与えて構造物をどれだけ小さく打ち砕くのか、その全てが計算の中に組み込まれている。下手な手加減の余地など残されている筈も無い。周到に設計された砲撃計画は、まず下から上へと狙う直射を集中し、会議場の天井部分を粉々に吹き飛ばした。大きな隙間を抱え込ん建物全体に強い振動を与え、壁面が崩れて天井全体が落下することの方が、内部の被害は余程大きくなってしまう。続いて、会議場周囲の構造に対する集中砲撃が轟いて、かつて会議場だった室内は、その観客席の並ぶ階段を露天にさらけ出し、攻撃は停止した。

砲撃が止むのを待ちかねたように、程なくして、その観客席の一部が陥没したような大穴から、建物の残骸を周囲に振りまきながら、青く光る何かが、頑強な二本足を踏み締めて立ち上がった。かつての会議場は壁面のかなりの部分も崩れ落ち、すっかり周囲の見晴らしもいい状態になってしまっていた。自らの鳥足が踏み抜いて開けた穴から這い出し、もう一度観客席の高さへと昇ったピケ・オーストリッチの足元には、傾斜を付けられた階段下の僅かな空間に頭を突っ込んだ、赤い機体も見えている。その深紅の色にへばり付くようにして、隙間を塞いでいた白い泡のような何かが、もこりと盛り上がった。粘着質の白い発泡素材を、内側に包まれていたドンファンの機械腕が苦労して剥ぎ取ると、王島はあたふたと、さらに下へと埋もれていたポッドを掘り起こした。白い泡の塊に包まれたポッドは、まるで宝物を包んだ繭のようにも見える。ドンファンの機械腕を背後へと待避させ、自らの小腕で繭を覆った泡を掻き分けた王島は、透明なキャノピーが姿を現し、その中から再び、大きな瞳がひょこりと覗いたのを確認して、大きな安堵の溜息を吐いた。

「な、な、なつきさん、大丈夫ですか。」
「はーい、私は大丈夫なんですけど、この衝撃吸収剤、触るとべたべたするのが難点なんですよねー。髪の毛にくっつくー。」
「………なつきさん、申し訳ありませんでした。」
「えっ、何でですか?」
「その、私のミスで、なつきさんをこんな危険に巻き込んでしまい…。」
「えー、だって、面白かったですしー。」
「…いや、しかし…。」
「…だって、守って下さるって信じてましたから、ちっとも恐くなんてなかったですよ?」
なつきが少し潜めた声で、にこりと微笑みながらそう答えると、王島は今度こそ、息を固めて完全に行動を停止した。その背後で、ようやく発泡素材を掻き分け脱出した柊星は、ぼそりと力の抜けた声で呟いた。
「……結局、一番おっかねえのは、やっぱバトメか?」

 

 

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