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Job well done party Vol.1

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 Rosa Mystica Vol.1

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 Oldest Trick in the Book Vol.15

 

 

***   Job well done party   ***

 

Vol.1

「…ったくよーふざけんじゃねーよ、あのタヌキあのよーかいあの腹黒じじい…っくしょー、くたばりぞこないがー……。」
「ふーん、さすがの柊星も、そろそろ罵詈雑言のレパートリーが尽きてきたんじゃないのか。」
「んだとー、だいたいだな瑞穂、てめーは自分だけド派手に突っ込んですっきり憂さ晴らししやがって…。」
「……あー、すまん、やはり俺のミスが痛恨の失敗だった、あれさえなければ…。」
「おっさん! てめーもやたらと自分だけあやまる癖何とかしろ!!」
「そうですよ、王島さん。はめられたという意味では、チーム丸ごとで同罪ですから。」
「いや、しかしだな…。」
「…にしても瑞穂、てめいっつもひとりで涼しい顔してやがって、ちゃんと飲んでんだろーな。」
「飲んでるよ、もちろん。同じ量だけ飲まないと承知しないと言ったのは柊星じゃないか。お前がそれを飲み終わらないと、次が飲めないんだけど。」
「んだとー、見てろ、直ぐ空になる!」
「おい柊星、ほどほどにしておかんか。瑞穂もここまで来て焚き付けるな。」

いい加減酔いも回り、真っ直ぐに座っているのさえ怪しくなっている柊星は、慌てて止めようとする王島の手を振り切って、その勢いに任せて天井を振り仰ぎながら、グラスに残っていた酒を一気に口の中へと流し込んだ。呂律も怪しく、力の抜けていまいち迫力に欠ける悪態ではあるが、聞かれる相手によっては相当拙いことになりそうな柊星の声も、周囲に負けず劣らずの同じような喧噪が満ちて、飲み込まれてしまう酒場の片隅である。辛うじて自分のノルマを飲み下したものの、微妙に息を荒げて肩を浮つかせている柊星を横目で眺めながら、王島は、すかさず次の酒を二人分注文している瑞穂へとにじり寄った。
「もう相当飲んでる気がするんだが、大丈夫なのか、柊星は。」
「うーん、そうですね、今日は少し飲み過ぎてますが、どっちかというと悪酔いというところかな。限界を過ぎると口が止まって潰れるので、そこまでは飲ませて大丈夫ですよ。王島さんもお強いですね。」
「…その言葉はそっくりそのまま、瑞穂に進呈するようだろう。」
「あ、俺の場合は、本当にアルコール代謝がちょっと特殊らしくて。酔うって、経験したことがないんですよ。一族にも似たような体質のがいるらしいですし、遺伝なんでしょうね。」
「ほう、成程、如何にも瑞穂らしいという気もするな。」
「他の薬物代謝についても普通と違う所があったりするので、メリットばかりとは限らないんですが。」

屈強な猛者揃いのWD兵と言えども、滅多に過ごさないような量と速度で酒を流し込んでいるとは、到底思えない、常と恐ろしい程に変わらない瑞穂のにこやかな笑みを見て、王島は思わず、ほっと緩んだ息を吐き出した。追加課題とは名ばかりの実戦的砲撃戦に巻き込まれ、這々の体で演習を終えた柊星達最終チームは、結局、お祭り好きな藩国部隊の面々の大歓迎に迎えられるという状況に陥った。部隊中に問題児の名を轟かせ、チーム演習の課題では最も難しい無理難題を押し付けられた柊星のチームは、元より注目度としても断トツのトップだったのだ。その難関をほぼ突破してしまったというだけでも話題性は充分なのに、その上でのほとんど騙し討ちのようなペナルティと追加課題の発動が、華々しい模擬砲撃で盛大に締め括られる予定だった大規模演習の終幕に、さらに油を注いだような形である。

祝杯という名の酒の肴に、あちこちからお呼びが掛かるのを、不機嫌極まりない柊星の剣幕で振り切った彼らは、演習の続きのような三人組のままで、何とかこの酒場の薄暗がりに身を潜めることに成功していた。チームで反省会との名目を付けて、王島をやや強引に、引く手数多の他の誘いから引き離したのは、柊星と瑞穂との気遣いだったのかもしれないと、王島が遅蒔きながら気が付いたのは、つい先程のことだった。藩国軍関係者が利用する飲食店は、背後に妙な繋がりを持たず安全に遊べるとのお墨付きが出ると、勢い知った顔が集中し、溜まり場になってしまうことも多いものだが、柊星達の行き付けらしいこの店には、他にはそれらしき人影もない。見るとも無しに、照明を絞って見通しの悪いフロアに視線を投げていた王島の横で、瑞穂がマイペースな声を上げた。
「おい柊星、次の酒が来てるけど。もうギブかな。」
「…っか言うな…まーだぜんぜ……。」
「ああ、そろそろ駄目ですね、しばらく放っておきましょう。」

酔いの欠片も感じさせない、演習のナビゲート並に通常通りの瑞穂の口調に、さすがに重くなったまぶたを押し上げながら、王島は何とか呆れた表情を形作った。
「このハイペースでこれだけ飲めば、潰れもするだろう。いつもこんな調子なのか。」
「いえまあ、大きな演習明けは大体このくらいぐだぐだ煩いので。さっさと潰してしまうに限ります。」
「…成程、お歴々に注目されているというのも、中々大変なものだ。」
「有り体に言わせて頂くと、あからさまな嫌がらせでしかない課題も多いですからね。またご覧の通りの負けず嫌いですし、適当に流せばいいものを、変に律儀に正面突破なんてやらかすので、向こうも引けなくなるんじゃないですか。それに比べると御大の課題は、確かに一筋縄では突破出来ませんが、純粋に想定の難易度が高くて取り組み甲斐はあると思います。巻き込まれた王島さんには、ご迷惑だったでしょうが。」

さらりと容赦のない言葉を言い放つ瑞穂に、王島は苦笑を向けた。これでうっかり、自分が少しでも負担を感じているような素振りを見せれば、再びこの二人と組むチャンスに恵まれたとしても、締め出しを喰らいかねない雰囲気である。一瞬だけ、誤解無く自分の真意を伝えるべく、言葉を選ぶべきかと思いを巡らせた王島だったが、その考えは酔いに紛れて直ぐに消え失せ、結局はごくいつも通りの、飾り気無く真っ直ぐな王島らしい台詞が瑞穂に届けられた。
「取り組み甲斐と表現するのなら、確かにそうだな。自分の限界を試されるのは、事実として苦しいものではあるが、簡単に己の弱点を肝に銘ずる方法が、他にある訳でもないだろう。」
「……王島さん、物分かりが良すぎると、柊星にも御大にも、俺にも、本当にいいように使われますよ。」
「あー、そうだったな。ははは、どうも俺は頭が単純でいかん。」

頭をかいて僅かに赤面してはいるものの、一向に悪びれた所の無い王島の豪快な笑い声を聞きながら、瑞穂はほんの少しだけ笑みを深め、そしてちらりと、柊星の様子に視線を走らせた。背もたれに身体を預けたままかくりと首だけを落として、柊星が微かな寝息を立てているのを確認してから、やや声を潜め、瑞穂は改めて王島に話を切り出した。
「…違ってたらすいません。もしかして王島さんは、俺に何か聞きたいことがあったんじゃないですか。」

 

 

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