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Job well done party Vol.3

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 Job well done party Vol.2

 

 

***   Job well done party   ***

 

Vol.3

「……瑞穂?」
「…おっしゃる通り、知らなければ戦えないこともあります。ですが、知ってしまったら、もう後戻りは出来ない、そういうこともありますよ。」
酒場の喧噪に紛れ込ませるように、低く静かに抑えられた声でありながら、瑞穂の言葉は、不思議な明瞭さを持って王島の耳に届いた。まるで、その声こそが、一度聞いてしまったならもう戻れない、その告知に相応しいような気がして、王島はがちがちに凍り付いたままで瑞穂の言葉の続きを待った。その王島の緊張をはぐらかすかのように、瑞穂はふと、その線の細い女顔に、にこりと笑みを浮かべた。

「まあでも、どちらにせよ、もう遅いかもしれませんね。俺が何らかの情報を持ってるかどうかより、大事なことがあるんじゃないですか。王島さんの推測を統合すると、なつきさんは、やしなさんよりももっと、WD部隊に入るような身分の人じゃないことになりますが。」
「!?」
「王島さん、その話を今まで、誰にもされたことは無いですよね。どうして、俺に聞いてみようと思ったんですか。世間話程度の情報だけが欲しいなら、確かにわざわざ三上家の話を出す必要は無いですし、俺が興味を持って余計な詮索をしたりしないように、もう少し当たり障り無く話を持っていく方法は、あったんじゃないかと思います。それに気が付かない王島さんとも思えない。俺がいきなり先制をかけてしまったのは、お詫びしますけど。王島さん、もう既にご自分で、答えを捕捉してるんじゃないかと思いますが。」
「……まさか、なつきさんも三上家の方だとでも」

瑞穂へ向かって身を乗り出し、長身を支えるがっちりとした腰を、椅子から浮き上がらせんばかりの勢いで、咳込むような言葉を投げた王島の目の前を、指の細い瑞穂の手が、鋭く押し留めた。慌てて言葉を飲み込んだ王島に横顔を向けて、瑞穂は、だらしなく椅子の背に身を預けた柊星を見詰めている。すると正に、その視先の向こうで、格星がゆらりと身を起こした。
「っくしょ、気持ち悪り……。」
「…何だ柊星、今日はだらしないな。」
「んだとー、じょうだんじゃねーぞ。てめーみてーなうわばみといっしょにすんな。そーのするっと白い顔から、インケンな性格から、っとに蛇みてーな…。」
「ああ、はいはい。」

瑞穂は王島に目配せしながら立ち上がると、慣れた手付きで柊星の腕を肩に担いで、その身体を立ち上がらせた。
「…王島さん、すいません、ちょっとお待ち下さい。こいつ、いったん外へ出して、頭冷やして来た方が良さそうなので。」
「大丈夫か? なんなら俺が担いでいくが。」
「いつものことなんで問題ないですよ。王島さんも、少し情報を整理されたいんじゃないですか。酔い冷まし用のベンチがあるんで、そこに捨てて来ます。」
「……だれが捨てるだ? テメーとの腐れ縁を解消出来るんだったらなー、望むところだ。」
「それは俺のセリフじゃないか。この問題児を野放しにして、世間様に迷惑を撒き散らさなくていい方法があるなら、是非教えて欲しいね…。」

あれ程酔っていながら、それでも常とさして変わらない舌戦を展開している二人の応酬に、半ば呆れながら、王島はフロアを出ていく後ろ姿を見送った。色の白い女顔に、WD兵らしからぬ長めのウェーブへアという、華奢な外見を持つ瑞穂だったが、柊星の身体を支えるその背を見れば、細身ではあっても、鍛え上げられた肉体の威力が、侮りがたいレベルであることは疑うべくもない。あの柊星と行動を共にし続けることを考えれば、それも当然かと、妙な納得をしながら、王島は我知らず、深々とした息を吐き出して身体の緊張を弛めた。

この話題の相談相手に、何故瑞穂を選んだのか、今となっては良く分からない。だが確かに、迂闊に誰にでも喋れるような内容ではないと考えていたことは、間違い無かった。王島は長い腕をがっちりと組み、それで己の身体を支えるように背を丸めながら、瑞穂との会話を反芻し始めた。瑞穂を選んだというよりも、確かに、彼であれば話してみてもいいかもしれないと、そう思ったのだ。特に遊んでいるということでもなさそうだったが、女性の扱いが巧い瑞穂には、バトメ部隊に多くのファンがいると、WD部隊内でも有名な話だったし、実際合同演習の際など、連絡役にかり出されているのを見掛けることも多かった。だからこそ、と考えかけて、王島はふと首を捻った。記憶の片隅を、何かが掠めて通る。あれは、何時のことだったろう。何かの瞬間に感じたことがあった。なつきと瑞穂には、何処か似ているところがあるような気がすると。

その時、王島のその思考の隙間へと滑り込むようにして、背後からのんびりとした声が投げられた。
「…大丈夫かな、彼は。」
はっと我に返った王島が、慌てて振り返ると、後ろのカウンタ一席に座った黒いスーツ姿の男が、身を捻ってこちらへと顔を向け、静かな笑みを見せた。少し長めの艶やかな黒髪に、縁の細い眼鏡を掛けた若い男である。その眼鏡の奥に光る切れ長の瞳を見やりながら、瑞穂といい、世の中にはきれいな顔の男もいるものだと、埒もないことを考えてしまった王島は、自分も改めてそちらへと向き直りながら、大急ぎで頭の中から言葉を掻き集めた。
「…あー、お騒がせしてしまいまして、申し訳ありません。」
「いやいや、あの程度じゃお騒がせにはならないよ。この手の酒場としては、充分お行儀のいい部類だ。」
「…はあ、恐れ入ります。」

当たり障りのない受け答えを選びながら、王島はさすがに酔いの回った脳裏から、この男が何時からこの位置に座っていたのかを、懸命に思い出そうとしていた。この酒場の最も奥まった暗がりに三人が腰を据えた時には、周囲には誰もいなかった筈である。彼等が陣取ったテーブル席よりも、カウンターのスツールの方が高い為に、王島としては珍しく、上から見下ろされるような構図になっていた。その位置取りに、僅かな緊張を感じながら、王島は無意識のまま、さり気なく背を伸ばした。細身のスーツの背筋が、寛いでいるようでいて、真っ直ぐに安定しているのに、王島は一目で気が付いていたのである。瑞穂よりもさらに細い手足を見ると、WD兵というには無理がありそうだが、ここが柊星達の行きつけの店であるのなら、軍関係者が出入りしていても、おかしくはないだろう。何処となく、ヤガミに似ているかもと微かに考えながら、一瞬だけ躊躇した王島だったが、結局は如何にも彼らしく、ストレートな質問をそのままロに登らせた。

「…失礼ですが、彼等のお知り合いですか。」
「いや、こっちは良く知っているつもりだけど、向こうが私を覚えているかは定かじゃないね。」
成る程、店の常連というところかと、一応は納得した王島だったが、それで警戒態勢をとくという訳にもいかないようである。王島から背後の位置は、瑞穂にはちょうど真正面になる。柊星に対してでさえ、あれ程気を遣った瑞穂が、顔見知り程度の男に、何の配慮もしないとは到底思えなかった。さてどうしたものかと、ともすれば空転しそうな思考を巡らせている王島の先を抑えて、眼鏡の男が口火を切った。
「まあ若い頃は、あれぐらい無茶も可愛いものだ。守るものが出来て、己の身一つのやんちゃが出来なくなる前に、色々と試しておくことは奨励してもいいくらいだね。」
「…はあ、確かにそういうものかもしれませんが。」

外見的 には、自分達とさして変わらない年齢に見えるのだが、人懐こい親しげな口調ながら、妙に年寄りくさい言葉尻に引っかかりながら、王島は反射的な返答を返した。柊星からは常々“おっさん”と呼ばれてしまう王島だが、実際のところ、それ程の年の差があるという訳ではない。自分の見た目も言動も、そう取られてもおかしくはないからと、別段異を唱えるつもりすらない王島だったが、その自分の外見よりも、更に年かさであるような、もしくは、他者に命を下すことに慣れたような微妙な威圧感が潜んだ態度である。あの柊星を可愛い扱いかと、眉間に皺を寄せる瑞穂と怒り狂う本人とを、思わずありありと連想してしまった王島は、それに続いた予想外の言葉に、瞬間反応し損ねた。
「しかし確かに、三上の放蕩息子如きでは、加賀見本家の事情に関わるのは難しいだろう。瑞穂の立場で、なつみの情報を探り出そうとするのは無理だよ。」

 

 

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