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2010年4月21日 (水)

さいれんす

 

物語の中で
 
ふたりの父のことは
 
何も語られていない

 

正当な王であるというだけで
 
先王の治世が
 
優れていたと言われる訳でなく
 
海賊の父は
 
捏造の証人に語られた
 
嘘の姿はあっても
 
その実像がさらに覆されることもない

 

だが
 
彼女を救う先王のコインは
 
海賊の父より受け継いだ
 
眼帯の中から現れる

 

王家の船を襲ったことは
 
本当なのだろう
 
何故その船に乗っていた娘を
 
王の娘と分かっていながら育てたのか
 
それが語られる訳でもない
 
海賊の時代に
 
スペインを始めとする強国に挟まれた
 
大陸の小さな国の王が
 
何故イギリスから妃を迎えたのか
 
語られる訳でもない
 
生まれたばかりの幼子を連れて
 
8番目の王妃が
 
王自らが彫ったコインを携えて
 
海賊の海を
 
渡らなければならなかった理由
 
そのコインは
 
海賊の罪の証に他ならない
 
それを肌身離さず
 
眼帯の中に潜ませて
 
本人にすら知らせないまま
 
実の娘として育てたその理由
 
全ては物語の中で
 
影も形も現さない

 

それでも
 
ふたりの父は
 
娘を
 
愛していたのだろう
 
それぞれの立場で
 
それぞれの価値観の中で
 
己に許された精一杯を尽くして
 
その想いこそが
 
本物の女王を育て
 
彼女を救う
 
それは言葉で語られることの無い
 
沈黙の物語

 

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