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2011年12月10日 (土)

比翼の鳥14

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 パートナーシップ 27

 

 

***   パートナーシップ 28   ***

 

三連の星のように連なって、敵母艦の横腹を滑り降りていたRBの編隊は、船底へと辿り付いてついと二つに分離した。前の二機が艦を離れ、そのまま海底へと深く潜り込んだのに対して、最後の希望号は等距離を保ったままで再び船腹を迫り上がりながら、しかも進行方向を船首へと寄せ始めたのだ。航行中の艦船に並んで艦首方向を目指すということは、シールドシップを上回る速度でRBを走らせるということである。単純に加速度だけのことであれば、確かにRBの瞬発力は艦船を上回るが、ただ直線軌道を併走するのではなく、船体にまとわりつきながら斜めに走る複雑な軌跡を描くには、非常に高度な操縦テクニックが必要だった。しかし希望号は、優雅な程に滑らかな曲線を敵艦側面に描いたかと思うと、また再び身を翻して船腹へと沈み込みながら緩やかに速度を上げてゆく。

シールドシップの至近距離に敵RBが肉薄しているという状況は、火星の戦場においてであっても、それ程長い時間継続されるような代物では無かった。シールド突撃という、物理法則の常識をすら覆した絶対の奥の手がある限り、艦船は己の掲げた巨大なシールドの懐へとRBに潜り込まれてしまった時点で、ほぼ無力化されているに等しいのである。希望号を始めとする夜明けの船の飛行隊がその奥の手を行使することは、実際には極めて稀で、戦況が極端に悪化した時にしか選択されないということは統計的に明らかになってはいたが、相手の気分次第の傾向分析に、自艦の命運を賭けてしまうなどという物好きな司令官が滅多やたらにいる筈も無い。飛行隊にこれ程の接近を許しながら、水雷の迎撃さえ惜しんで悠然と進軍を続けるシールドシップに遭遇したのは、夜明けの船にとっても初めてのことだった。

この艦を見逃せば、夜明けの船が、正確にはライラが、シールド突撃をぎりぎりの戦況に追い詰められるまで選択しないという事実が、はっきりとデータとして火星派遣の各軍に認識されてしまうだろう。敵艦乗組員の全滅を意味するシールド突撃を避けるのは、ライラの信念に基づく選択だったが、その意志を貫くためには、手品のような奥の手を使わなくともこの巨大なシールドシップの驚異となるべき戦法が必要なのである。まして、これからも飛行隊のトライアングル運用を行う限り、僚機が待避しているタイミングでなければ本当にシールド突撃は実行出来ない。その弱みを露わにしないためにも、これまでにない強力な打撃を敵艦に与える方法論を、編み出さなければならなかった。

今ならば、タキガワとイイコは海底方面に距離を取っている。それが何を意味するのかは、敵艦にも間違いなく認識されているようだった。船腹へと滑り込んだ希望号に対して、敵艦の魚雷が次々と放たれる。だが、希望号はまるでそれを待っていたとでも言うように、水雷群を率いたままで艦首方面へぐいと伸びやかに加速した。その速度差を生かして迫る水雷を叩き落としつつも、希望号はさらに艦首方面へとじりじりと遡り、そして艦に接近し始めた。爆散する水雷の光に照らし出されながら、その光を押し戻そうとするかのように進み続ける希望号を追って、これまでとは打って変わった容赦の無さで、続く水雷が次々と襲いかかる。

艦船の後方や側面から追い上げたRBが接近することはあっても、絶対の威力を誇る艦船規模のシールドが掲げられた艦首近辺にまで、飛行隊が追い縋るというのは、ほとんど想定されることの無い状況である。その為水雷の発射口は、シールドシップの中間から後方に集中して設置されることがほとんどだった。発射から目標を目指すまでに、艦船の航行を逆行しなければならない状態では、水雷の命中率は著しく低下することになるだろう。さらなる進軍を阻むべく、水雷群は赤い雲のように希望号に群がったが、あまりに接近した状態で大量の爆発が起きれば、余波だけでも艦船の船腹にそれなりの影響が出る。まるで堪りかねたとでもいうように、シールドシップの艦体がじわりと浮き上がった。

だが、そんな僅かな浮上では足らないとでも言わんばかりに、海底方面から若手二人の編隊が急浮上で斬り込んで来た。艦から距離を取った間に加速した小気味の良い高速を保ったままで、タキガワとイイコとが希望号の灯した水雷の爆発を目印に、それよりもさらに艦首方向へと機体をねじ込み、敵母艦の喉元へ喰らいついたのだ。いくつかの水雷が辛うじて追い掛けて来るのを、先行して飛び込んだタキガワ機が振り払う間に、それをさらに追い越したイイコ機が船腹への接近を果たし、剣鈴を叩き込む。爆発の余波などでは無い、船体に大きく走った本物の衝撃から逃れるために、敵母船は重ねて浮上方面への待避を余儀なくされた。

「…二人とも、どう?」
「おう、これなら魚雷に追われても、数は少ないし、へろへろして当たる気がしねぇな。」
「艦首を狙ったのなんて、始めてですね…。」
「でもその分、ライラがきついじゃん。」
「二人の接近攻撃のフォローがあるなら、無理に艦に近付かないから大丈夫よ。二人とももう少し、ドランジが戻るまで頑張って。」
「おし!」
「はい!」

/*/

「御大、敵飛行隊は艦首方向船腹への集中攻撃を継続中です!」
「おい、艦長とお呼びせんか!!」
「ああ、構わん。どうせ俄艦長だ。」
「ですが、艦長…。」
「礼儀の話は戦闘が済んでから反省会でもするとしよう。それにしても、射角を削りに来たか。良い判断だな。」
「…艦長、また悪い虫が騒いでおられますな。」
「いやいや、この状況ではそんな余裕がある訳でもない。既に前衛をもぎ取られて単独航行、今のところ軽微だが損傷も拡がりつつつつある。この有様では如何に大型母艦とはいえ、任務をこなすのが精一杯というところだろう。」
「……任務とはいえ、艦長のような方にこのような…。」
「まあ、そう言うな。狸じじいには打ってつけの役どころと思われたんだろう。お前達には、苦労をかけるが。」
「…艦長。」
「いいか、方針に変更は無い。敵RBが接近攻撃に出た時点でのみ迎撃を行う。艦首方面へ追い上げられている状況では迎撃を行うが、水雷は出来る限り温存せよ。操舵は速度を維持、危険回避には浮上方面への進路を許可する。但し、ゆっくりだ、出来るだけ粘れ。」
「艦長、ですが、RBにこれ程接近されては…。」
「現状でシー突は無い。敵僚機が待避行動を見せた時には白い奴に水雷を集中しろ。むしろシールドを切って、後方に流されながら忍び足を仕掛けられる方が厄介だぞ。敵機を見失うことのないよう、水測の精度に期待している。」
「はっ!!」
「…勝負は、もう一機が戻ってからだ。」

 

 

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