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2013年9月 1日 (日)

比翼の鳥17・急

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 パートナーシップ 30

 

 

***   パートナーシップ 31   ***

 

なだらかな曲線を描いて海底方面へと潜行しつつ、最大加速のまま戦域へと接近したドランジは、敵母艦の巨大なシールドを盾に、機を潜めるようにして進路を定めた。その到着にタイミングを合わせ、ライラ達三機のRBは、苦労して潜り込んだ敵艦の腹の下から這い出し、散り散りに不規則な軌跡を描きながら、敵艦の巨大なシールドの前面へと滑り込んだ。

ドランジが諦めると断言してしまったのは、ライラが指揮していてすら手こずったこの母艦に対し、引き続き無力化を目標に厳しい攻撃を維持しては、ライラに着艦を承知させるのは、とても無理だろうと思われたからだが、かといって、現状のままこの艦に自由を許せば、夜明けの船の戦域離脱難易度が跳ね上がってしまうことも間違いなかった。ドランジ機の後を追って、既に夜明けの船が進路を変更し、船足を上げ始めているのは確認しているものの、直進してこの生き残り母艦とすれ違うのか、隙を縫って急旋回を仕掛け、速度の利を生かしてRB隊と艦とがばらばらに戦域を離脱するのか、最後の選択としては、まだどちらとも言えない状況である。

せめて、タキガワ達だけは着艦させてから、離脱の乱戦に持ち込みたいドランジとしては、もう少しだけこの母艦を足止めしたいというのが本音だった。時間を稼いでライラが戻るのを待ち、若手二人を着艦へ向かわせて、敵本隊と合流するまでのタイミングを盗んで一気に脱出を図るのであれば、活動限界の不利を引き受けるのはドランジということになるだろう。ライラならば、さらにドランジ機の着艦も要求するだろうが、そう考えてしまってから、ドランジは暗いRBの中でぶるんと大きく頭を振って、脳裏で先へ先へと広がろうとする想定を追い払った。まずは目前の窮地から、ライラを逃がさなければ、それが最優先の課題なのだ。ドランジは、トポロジーレーダーの敵艦を睨み据えながら、口を開いた。

「ライラ、このまま加速を開始して夜明けの船へ向かってくれ。同時に飛行隊はいったん急潜行、速度を上げながら敵艦の前進を待ち、船腹を狙って急浮上攻撃を掛ける。先頭は俺が引き受けよう。」
「分かった、この間の待ち伏せ攻撃と同じだな。あれはホントすげータイミングだったぜ!」
「りょ、了解しました。」
「…ドランジ、後はお願いね。」
「ライラ、ドランジだけじゃなくて、俺だってイイコだって頑張るからさ!」
「そうですよ、ライラさん。」
「ええ、そう、そうよね。イイコちゃんもタキガワも、任せたわよ。」
「…行ってくれ、ライラ。」
「了解、希望号は着艦に向かいます。」

常と変わらぬ口調を何とか維持しているようでいて、ライラの言葉の語尾が、ほんの僅かに震えている。その不安げな声を聞いて、ドランジは、既に相当速まっている自分の心拍数が、反射的にさらに跳ね上がろうとするのを力で押し留めるかのように、ぐっと拳を握り締めた。シールドシップの巨大な絶対物理防壁に隠れたこの位置から、希望号の加速力を全開にして離脱すれば、敵艦が再びレーダーでその位置を把握可能になるまでに、かなりの距離を稼ぐことが出来る筈である。だがそのためには、ライラが自分の気持ちを切り替えられず、残された飛行隊に気を取られて離脱の加速に専念出来ないようでは、困るのだ。己の鼓動と共に自分の時間の流れが加速し、逆に世界の時間がゆっくりと間延びしているかのような緊張の中で、希望号が夜明けの船方面へとシールドを構え、加速し始めたのを確認しながら、ドランジがRBを潜行に向かわせようとしたその時だった。

敵母艦を示すトポロジーレーダー内唯一の赤いラインが、突如旋回方向へと大きく鋭角を突出した。威容を誇る巨大母艦が、悠然とした今までの動きとは、比べものにならないような素早さで大きく舵を切り、艦首を振るってシールドを傾けたのである。隠れていた筈の盾を取り払われたRB達を目掛けて、次の瞬間、敵母艦の側面から一斉に水雷が放たれた。一瞬で出現した無数の赤い三角形が、レーダーの中心部を塗り潰すのを見たドランジは、咄嗟に潜行をキャンセルすると、RBを強引に急旋回させ、敵母艦と希望号との間に自機を捻り込んだ。
「ドランジ!!」
「行くんだ、ライラ! 狙われているのは君だ!!」
「えっ、わ、私!?」

戦域へと駆け戻った最大加速のままでは、小回りで水雷を引き付けつつ墜としていくのは難しい。しかし、これだけの数の水雷群を相手に速度を緩めれば、あっという間に捕まってしまうだろう。運んできたばかりの機雷を身代わりに撃ち出し、ドランジはさらに機体を捻って旋回させながら、声を荒げた。
「急げ、ライラ。敵は君の離脱を背後から狙うつもりなんだ。ここは我々が引き受けた。」
「だ、だって、ドランジ…」
「ライラ!!」

速度差が大きく開いたままでは、距離もまた一瞬で離れてしまう。ドランジ機を見失えば、水雷群は加速に躊躇する希望号へと迫るだろう。大きく息を吸い込んで、機体に急減速を掛けようとしたドランジの背後に、だがほんの刹那速く、イイコ機が緩やかに滑り込んだ。速度の遅いイイコ機へとターゲットを変更した水雷が、剣鈴の一閃で切り裂かれるのに続いて、超高速で飛び込んで来たタキガワ機の放った魚雷が、すれ違いざまに敵水雷を捉えて爆散させた。
「行って下さい、ライラさん!」
「大丈夫だぜ、ライラ。俺達、このパターンを一番特訓したんだからさ!」
「…確かに、作戦変更だな。いつもの奴でいこう。」

 

 

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