« 再起動 | トップページ | ブルー・ブラッド »

2006年9月10日 (日)

閑話休題

えーと、プレイ日記お待ちの方には申し訳ありませんが、ちょっと景気づけに二次創作を一本。これを書かないと、シリアス編の続きが書けなくって…。

私はキャラクターを自分の分身だと思わない人間なので、割と平気で亡き者にしてしまったりしますが、復活させたのは、始めてかも。

 

 

***   ほさんな   ***

 

それ、は。

微かに、密かに。

水に溶けてたゆとうていた。

深く昏い海の底、
落ちて落ちて落ちたその果ての闇の中で、
それは。

星の表に在る全て、
在りと在らゆる罪と罰とを飲み込んで洗い流す
裁きの水に溶けていた。

声も無く。

姿無く。

そのまなざしも。

剣を振るう腕も、ちからも。

何もかもを無くして。

ただその、想いだけが、漂う。

水よりも希薄に拡散しながらも、それ、は。


形を無くした白い腕で、
それでも、なお
愛しい星を抱き締めようとしていた。

 

卵の殻のようなドームに覆われて、
遠い豊饒の未来を夢見ながら、未だ眠りに微睡む戦いの星を。

 

第二種アラートが響く赤い照明の中、ハンガーへの階段を駆け降りながら、ヤガミは脳裏に揺らめく青い影を追い払った。RBでの戦闘中に一瞬でも集中力が途切れれば、最悪命を落とすことにもなりかねない。だがその冷静さを保ち切れない自分に、ヤガミは腹を立てていた。

あれ以来、はるかは一度も姿を見せてはいなかった。夜明けの船の機動力を駆使して、何度か小競り合いをくぐり抜けてはきたものの、タキガワ機だけで戦場を撹乱するなどの、子供だましな作戦が長続きする筈もない。飛行長に収まってからはほとんどハンガーへは足を向けていなかったのだが、今回はそれでは済まされない規模の戦闘になる「予定」だった。

もう間もなく、船は戦闘へ突入することになるだろう。そのように情報を操作したのだ。外ならぬ、ヤガミ自身が。ヤガミがそうやって、夜明けの船の命運を手の平の上で転がしているのだということに、はるかが気が付いていたことは間違いない。彼女がこんなやり方を好まないことは分かっていたのだ。だが、それでも。

ハンガーに入ると、殺気立って走り回る整備員達と、対象的に身じろぎもせず希望号の傍らに立ち竦んでいるタキガワが眼に入って、ヤガミはぎりりと奥歯を噛み締めた。

「エノラ、2号機の整備も頼む。」
「ヤガミも出るの?」
あからさまにほっとした顔のエノラに、タキガワが声を荒げた。
「ちぇ、なめてんじゃねーよ。俺一人でも大丈夫だって。」

そう言うタキガワの顔は、はた目にもはっきりと分かるほど緊張で強ばっている。はるかと二人での飛行隊任務は、タキガワの能力を十二分に引き出して予想外の戦績を上げ、評判も上々だったが、それはあくまでもはるかの絶妙のフォローがあってのことだ。その事実に、タキガワ自身が気が付いていない訳はない。だがそれを認めてしまうのは、彼のプライドが許さないのだろう。
もしくは、ヤガミの手を借りなくてはならない自分自身に腹を立てているのかもしれないと、ヤガミは思った。このところのタキガワは妙にヤガミをライバル視して、何かにつけ張り合っている節がある。

「無茶を言うな。今回は大物が来る。」
「…ねえ、ヤガミ、あのね、ウィッカは…。」
「今ここにいない人間を当てにしても仕方ないだろう。」
おずおずと切り出したエノラの言葉を、苦労して絞り出した平静な返答で黙らせ、ヤガミはプリフライトのチェックにせわしなく動き始めた。RBに向かい合い皆に背を向けたところで、ヤガミは堪えきれずに、自嘲にゆがんだ笑みをその唇に浮かべた。

誰もが、待っている。風が還ってくるのを。だが、戦いを望まない者にそれを強いるほど、醜悪なことがあるのか。
誰よりも疾く戦場を駆け抜ける風が、誰よりも戦場に似つかわしくない魂を抱いている、その運命の皮肉。
だが、それでも。

これしか方法が無かったんだ。



凍るような痛みに胸を刺し貫かれて、それは瞳を見開いた。故に眼差しを、そしてその瞳を取り戻す。昏い水底に渦を巻き裁きの水の戒めに逆らって泡立ちながら、己を呼ぶ者達の声を探して、彼らを守る、ただそれだけのために振るわれるちからと、その白い腕とを取り戻す。

戦いの庭にしか現れない風に魅入られた者の哀しみがこだまする。だが、誰よりも彼女を待ちながら、彼女を呼ぶまいとして引き裂かれるその胸の痛みこそが、幾度となく、彼女を呼び覚ますのだ。癒されることさえ望まないその魂の傍らに立って、名前を呼ぶ、ただそれだけのために。

彼女は、声を取り戻した。



次の瞬間、はるかは足音も高くハンガーへと続く階段を駆け降りていた。扉が開くのを待つのさえもどかしく、ハンガーに飛び込んで、何事もなかったかのような明るい声を張り上げる。
「ごめーん、遅くなりましたー。寝坊しちゃった!」

ハンガーにいた誰もが残らず、一斉に振り返った。勢いよくハンガーに飛び込んだはるかは、手にした作業マニュアルを放り出して突進してきたエノラに阻まれ、慌てて立ち止まった。
「ウィッカ! 遅い、遅いよ、もうっ!!」
ほとんど涙目になりながら飛びついたエノラを抱き止め、はるかはいつもと変わらない笑顔をタキガワに向けた。
「ごめんね、タッキー。しばらく大変だったでしょ。」
「な、何言ってんだよ、ぜーんぜん余裕だったに決まってんだろ。」
「うん、なかなかの活躍だったみたいだね。」

取り囲まれて賑やかにお喋りを始めたはるかを遠目に見ながら、ヤガミはほとんど座り込んでしまいそうな程に呆然としている自分に、逆に驚いていた。どうあがいても、全てを計算通りに運ぶことは出来ないのだということは、骨身に浸みている。来なければ来ないで仕方が無いのだと、割り切っているつもりでいたのだ。共に戦うものが次々と脱落していく果てしなく遠い道のりを、ただ独り歩き続けるというのはそういうことだった。それこそが、ヤガミにとっての当然ですらあった。その歩みに、追いついてくる唯一の者が存在するのだとすれば、それは。

その時、ついに一種アラートが艦内に鳴り響いた。タキガワやエノラに発破をかけ、戦闘準備に動き出したはるかに、ヤガミはゆっくりと歩み寄った。いつものようにニックネームで呼びかけようとして、ヤガミはふと躊躇した。その言葉に込められた意味を思い出したのだ。

「あら、ヤガミ。飛行長がこんなところにいたらば、出撃命令が出ないじゃないの。」
「…誰のせいだと思ってるんだ。」
「わぁ、ごめんごめん。お小言は後でゆっくり…」
「はるか。」
弾かれたようにはるかが振り返った。眼を見開いたその顔を見て、素で驚いているはるかの表情を見たのは、そういえば初めてだったかもしれないと、ヤガミは思わず作りものではない心からの笑みをもらした。そして、ヤガミの言葉に込められた意味もまた、はるかは確かに感じ取っている。それだけでヤガミは満足した。
「な、なに? 改まって。」
「いや、久しぶりで力が余ってるだろう。思い切り暴れて来い。」
「はーい、行ってきまーす!」

ひらりと身を翻して鮮やかにRBに飛び込むと、はるかはラフな敬礼を返した。その笑顔が、閉まってゆくハッチの向こう側に消えるのを見送って、ヤガミは踵を返し、走り出した。
それでも道は終わることなく、戦いは果てしなく続くのだろう。だが、その戦の庭に、絶望の闇を吹き払う朝風が吹くのならば。

|

« 再起動 | トップページ | ブルー・ブラッド »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 閑話休題:

« 再起動 | トップページ | ブルー・ブラッド »