« はいすいのじん | トップページ | 業務連絡 »

2007年1月11日 (木)

お蔵出し その2

ということでお友達より強襲リクエスト、年末にお見せしたドランジ編の続きなど書いてみました。動かすためににきちんと作り込んでるキャラではないので、いまいち不安定ですね、うむむ。

前記事でタキガワの話を振ったりしたらば、「どちらも捨てがたい(大幅に意訳)」とのありがたーいお言葉が返って来まして。いえあの、ほかのリクエスト分も、ちゃんと覚えてます、よ?

実はこの後編にはお題を喰らってるんですが、た、達成出来てないので内緒ですぅ~。でもこれでも頑張ってるでしょ~。しかし、なんでオカルトちっくになってしまったんだろう? そしてまたしても、設定捏造放題…。

 

 

***   Goddess ・ 2   ***

 

ドランジが夜明けの船にやってきてから、1週間あまりが過ぎようとしていた。
まだ配置が決まらないままの彼は、積極的に艦内を歩き回って情報収集に勤めたり、陸戦隊員達に混じって身体を動かしたりしながら時間を過ごしていた。シフトが切り替り陸戦隊員達が引き上げた今も、トレーニングルームに一人残って軽い訓練を続けながら、自分の考えをまとめようとしているところだった。

夜明けの船の内部が朧気ながら掴めてきたという現状ではあるが、つくづく不思議な船である、というのが率直な感想だった。艦そのものの性能の高さもさることながら、エリザベス艦長を始め、ノギ少将や、かつて名パイロットとして名を馳せたサウドら、元太陽系総軍の優秀な軍人を揃えているかと思えば、火星大学の学生だったという若者達が陸戦隊長や水測長を勤めていたりする。年齢も人種も多種多様、言葉をしゃべるBALLSから、元地球大統領とその孫娘、果ては戦闘対象である筈の異星人までもが加わってなお、ごく自然にひとつの組織を構成している、その多様さと寛容さは信じ難いものがあった。
しかもその彼ら一人一人が、各分野での高い能力を持っているというのも驚くべきことだ。話を聞いてみれば、この船に乗り込むことになった経緯は皆ばらばらである。にも関わらず、まるで優秀な人材を選りすぐって集めてきたかのようだと、ドランジは思った。

そして。最大の謎は、ライラの存在である。
彼女の軍での所属を、さり気なくあちこちで聞いてはみたものの、満足な答えは得られなかった。少なくとも、RBパイロットであったという訳ではないらしい。彼女は救助ポッドに入って漂流しているところを救助されたのだという。パイロットとしての頭角を現し始めるより前には、もっぱらコーヒー配達の方が主たる仕事であったとまでいうのだ。俺が一から教えたんだと自慢気に話すタキガワの言葉を、誰もが肯定している。
彼自身も天性の才能を持つ、しかも敵としてライラに相対したことのないタキガワとしては、彼女がたまたま天才的パイロットであった、と納得しているらしかった。だが、ではどうして彼女はフル・サイボーグなのか。機械体が珍しくはないご時世ではあったが、生身の身体と寸分違わぬウェット・ボディが可能となった現在では、戦闘用義体を好むのは軍所属の、それも前線で活躍するパイロットに限られている。彼女がどうして戦闘用義体なのか、その答えは誰も知らないようだった。
ちょうどその時、まるでそのドランジの思いを嗅ぎつけたとでもいうように、明るい声が頭上から投げかけられた。

「ドランジ、少し休憩しない?」
慌ててドランジが振り仰ぐと、トレーにコーヒーを並べた相変わらずの姿で、階上からライラを顔をのぞかせている。軽やかに身を翻し、階段を降りてくる彼女の姿を見ながら、ドランジはもうひとつの疑問を再確認していた。ドランジが夜明けの船の艦内探索に勤しんでいると、こんな風に何度となく、しかもあらゆる場所でライラに遭遇する羽目になったのだ。彼が乗り込んでからの一週間、RBが出撃するような戦闘は起きていなかったが、主力パイロットが始終うろついているなどということは、軍であれば考えられないような事態だった。

「コーヒーより、スポーツドリンクでもあればいいんだけど。」
「…その、余計なことかもしれないが。」
「? なあに?」
ライラの差し出したコーヒーを受け取りながら、ドランジは慎重に切り出した。彼女が本当に新米パイロットであるのなら、その心得を伝授するような人物は、確かに夜明けの船にはいなかったのかもしれない、彼はそれを気にしていたのだ。飛行学校で学んだタキガワがそれを知らない筈は無かったが、かといって窮屈な決まりごとを他人に徹底させる程の経験が、タキガワにあるとも思えない。

「君はいつも船内を歩き回っているようだが、きちんと休養を取るのもパイロットの仕事の内だ。」
少し目を見張って見つめ返すライラの反応を、ドランジはやや緊張して待っていた。どうもこの人物を相手にしていると、調子が狂う。言ってしまえば、初対面から彼に対して恐れ気もなく接してくる若い女性というのは、正直これまで皆無だったのだ。軍のパイロットとして長く生きてきた彼としては、どんなに優秀な相手であろうとも、後輩に対して指導を行うというのは常識というより責務に近かった。それはつまり、パイロット自身の危険を減らす手段でもあるからだ。だがそれが現在のような立場で、しかも女性に対して通用するのかどうかは心許ない。

「ええ、ありがとう。実はタキガワにもヤガミにもそう言われてるの。程々にしておくわ。」
ライラが柔らかい笑みと共にそう返すのを聞いて、ドランジはほっとするのと同時に、またしても困惑した。彼女の返答を聞けば、休養を取って体調を万全に整えることの意味を、きちんと理解する聡明さは充分に感じられる。にも関わらず、彼女がその行動を止めないことの意味を図りかねたのだ。そのドランジの表情を見やって、ライラはくすくすと笑い始めた。
「納得がいかない、って顔に書いてあるわよ、ドランジ。」
「納得がいかないのは確かだな。だったら、何故四六時中艦内を歩き回るようなことを。」
「私が必要だと判断したから。」

さらりと、しかし有無を言わさぬ静かな鋭利さを秘めた言葉だった。予想外の反応に、今度はドランジが目を見張ってライラを見つめ返した。これは見た目通りの人物ではない、遅まきながらドランジはそれに気が付いた。余裕のある笑みを口元に浮かべて、夜の闇の色の瞳が彼を見ている。そういえば、タキガワが艦内を案内してくれた最後に、神妙な面持ちで妙なことを言っていたなと考えながら、ドランジはふと、ライラの顔立ちに見覚えがあるのに思い至った。
「…君にどこかで、会ったことがあるかな。」
「ドランジったら、誰にでもそんなこと言ってるの?」
からからと明るい声を上げてライラは笑い始めた。先程の印象とは打って変わったその表情にさらに困惑を深めながら、ドランジは懸命に記憶を手繰り寄せた。夜の闇のような、火星の海のような、どれ程光を満たしても際限なくそれを飲み込んでしまう、あの宇宙の闇のような、この瞳の色と、そして。

「そうだ、光の海だ。」
「光の海?」
ライラは笑いを収め、じっとドランジの言葉を待っていた。
「……昔、死に掛けたことがある。その時に、光の海を見たような気がするんだ。天から降ってくる光に打たれながら、風に吹かれていた、あそこで…。」
「シルチス沖の海戦で?」
ドランジはぎょっとしてライラを振り返った。
ドランジが夜明けの船との戦闘に参加したのは、実は捕虜になった今回が初めてではない。半年程前シルチス沖での大海戦において、ドランジは夜明けの船との戦闘で、圧壊ぎりぎりまで被弾しながらからくも生還を果たしていた。太陽系総軍が壊滅的な被害を被った激戦の中、脳震盪で意識を失い浮遊していた彼のRBは、何故か見逃されて僚機に回収され、ドランジは命を拾ったのだ。だからこそ彼は夜明けの船に興味を持ち、こうしてこの船の一員になることを決意したのだった。だがまだその経緯を、夜明けの船の人間に明かしたことはない。
その生死の境を彷徨った断片的な記憶の中で、ドランジは光の海を見た気がした。だが、あの風の中で誰かに出会ったことを、今の今まで彼自身も忘れていたのだ。

ライラは少しうつむいてドランジから視線をそらしながらも、迷いなく言葉を続けた。
「ドランジのRBはいい動きだったわね。仲間を守って、恐れ気もなく自分を危険にさらしていた。貴方は死んではいけない人だと思ったのよ。助かって良かった。」
「何故あれが私だったと知っているんだ。」
「だって声が聞こえたもの。」
「…君は、戦闘中の相手の声が、聞こえるというのか。」
「聞こえる人も、そうでない人もいるわ。」
口元に笑みさえ浮かべてそう言い返すライラの横顔を、ドランジはじっと凝視した。その荒唐無稽な言葉に嘘のないことを、何故かドランジは確信していた。そう信じさせる何かが、その表情の中にあったのだ。それから、はっと息を飲んだ。
「…あの戦闘で、私は部隊の半数を失ったんだ…。」
「そうね。私が、殺したのよ。」
ライラはゆっくりと視線をめぐらせ、ドランジを見た。彼は生死の狭間で見た光景をまざまざと思い出した。雨のように降る光の中で、人ではない何者かが風に吹かれて立っている。
あれは、この女の顔をしてはいなかったか。

だが次の瞬間、ライラはふいと視線をそらせた。猫のように移り気なその態度をドランジが問い詰める間も無く、ライラはやや口早にドランジに話しかけた。
「まだドランジは所属が決まってないのよね。」
「あ、ああ。それが何か。」
「私、もう行かなくちゃ。」
そう言いながらライラは、既に歩き出そうとしている。呆気にとられているドランジを振り返って、彼女はさらに言葉を続けた。
「民間人は食堂で待機、と言いたいところだけど、貴方はのんびり大人しくしているタイプではなさそうだから、消火活動あたりを手伝ってもらえるかしら。戦闘中浮き足立ってると、なかなか艦内修理がはかどらないのよ。」
口調は柔らかくても、その言葉には抗いがたい強制力があった。反射的にドランジは背筋を伸ばし、身体に染み付いた敬礼を返した。
「イエス、マム」
直立不動のドランジを当たり前のように見やって、ライラはもう一度微笑んだ。そして素早くきびすを返し、風のように軽やかに階段を駆け上がって部屋を飛び出してゆく。その後姿を見送りながら、ドランジはやっと、艦内を案内してくれた時に、タキガワに聞いた言葉を思い出していた。

ライラがコーヒーを配るのをやめたら、配置に付く。夜明けの船では誰もがそうする。

脳裏に響くその言葉の証拠であるとでも言いたげに、二種アラートが鳴り始める。ドランジもまた、それを当たり前のように聞き、躊躇無くライラの後を追って階段を昇り始めた。自分がこの約束の場所へと辿りつく事が、必然の結果であったということは、もうドランジにとって微塵も疑う余地のない真実だった。張り巡らされたか細い運命の糸を正しく選び取って、彼は己のあるべき場所へと辿りついたのだ。

 

戦闘終了後、すぐさまドランジはRBパイロットに志願した。死を運ぶ白い女神とともに、火星の海に舞うために。

|

« はいすいのじん | トップページ | 業務連絡 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: お蔵出し その2:

« はいすいのじん | トップページ | 業務連絡 »