女神りたーんず3
我ながら驚くような手際の良さでRBを起動し、息を吹き返した機体を急発進させながら、ドランジは水雷の狙い目を探してトポロジーレーダーを睨みつけた。狭い岩場に念入りに潜ませたRBを急激に上昇させるには、非常に高度な操縦技能が要求される。だが、自分がそんなデリケートな操作をしているのだという自覚さえ、どこかに置き忘れてきてしまったかのようだ。
案の定想定よりも希望号の位置取りが近いのを意識しながらも、ドランジは躊躇なく、急上昇を続ける士翼号から敵RBの一群に向かって、立て続けに魚雷を撃ち込んだ。常の自分からすれば、信じられないような危ない賭けだった。にもかかわらず、その行動が正しいのだという奇妙な確信が、ドランジの意識を占拠していた。
まるでその確信を証明すると宣言するかのように、希望号の機影もまた、前触れもなく急上昇をかける。突然の行動に反応し損ねた敵RBの背後から、ドランジの放った魚雷が襲いかかった。彼らからすればドランジ機は、自分たちの背後に忽然と現れたかのように見えただろう。海底から急発進した勢いのまま、敵機の背後を通過するすれ違いざまに、至近距離から水雷を撃ち込んだ形となったのだ。
シールドを展開することが出来ない背面からの攻撃に対し、RBは酷く脆い。その上、絶対物理防壁へ向かって引き込まれるというその水中移動方式は、急激な方向転換がほぼ不可能であるということに他ならなかった。魚雷群はあっけない程簡単に、敵RBを吹き飛ばした。
ドランジはそのまま機体を上昇させ、同じように海上方面に浮かび上がった希望号と合流した。当初の打ち合わせでは、ドランジ機はもっと希望号との距離が開いたところで発進、背後から追い上げる手筈となっていた。当然敵RBに気が付かれる確率も高く、挟撃の有利さはあってもそれなりの戦闘は覚悟の上の作戦だったのだ。だがさらなる攻撃を仕掛けるまでもなく、次々と起こる誘爆に翻弄されるRBの群れを、二機は揃って睥睨する。
慌てふためく人形の群れを見下ろすその二機の機体を、続いて衝撃波が揺さぶった。態勢を整えてシールドを構え直すRB達を押し包んで、暗い火星の海が、瞬間、膨れ上がるように広がる凄まじい光と、打ち付ける大音響で満たされる。敵艦隊を十二分に引き付けて我慢に我慢を重ねた夜明けの船が、隠していた牙を剥き、大量の水雷を一斉に放ったのだ。
普段飛行隊が夜明けの船付近に展開している間は、誘爆を恐れて水雷を控える慎重なエリザベス艦長が、ここぞとばかり上機嫌に檄を飛ばす声が、耳に聞こえるような攻撃だった。
「ドランジ、すげーよ、あのタイミングはすげぇ!!」
距離があるため、切れ切れでノイズ交じりのタキガワの通信が飛び込んで来て、ドランジは再び苦笑いに口元を緩めた。圧倒的優勢にあるとはいえ、戦闘中の遠距離通信は好ましいことでは無かったが、缶詰の緊張状態から解放された興奮に、我慢し切れなかったのだろう。そのまま歓声を上げるタキガワの声が微かに届き、シールドに阻まれたらしくふつっと途切れた。夜明けの船の盛大な花火を、辛くも逃れた戦域周辺部の敵艦を、二手に別れて海底に潜んでいたタキガワとイイコが制圧に取り掛かったのだ。
眼下の敵RBに、既に反撃の余力も無い状況なのを確認し、ドランジはライラを促した。
「ライラ、もしこれでもかかってくる奴がいたら俺が引き受けるが、まず問題ないだろう。タキガワ達に合流して、追撃を。」
「……そうね。」
知らず知らずの内に、自分もまた多少なりとも浮かれていたドランジは、そっけないライラの返答を聞いて、はたと我に返った。戦闘中のライラは他の飛行隊員の精神状態に気を配り、どんな状況であろうとも変わらない、きびきびとした指示を飛ばすのが常だった。恐らくはドランジだけが聞いた筈の通信ではあったが、そっけない上に具体的な指示さえない通信など、普段のライラからは考えられないような態度である。
しかも希望号は、ドランジを待たずにそのまま加速をかけ、タキガワ達に合流するために移動を始めたのだ。予想外の事態に真っ白になって固まっていたドランジは、頭の中を疑問符で埋め尽くされながらも、慌てて希望号を追って動き始めた。
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