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2008年12月 6日 (土)

特番・議会開放前夜

アニメの絢爛舞踏祭マーズデイブレイクを見た時、ドツボにはまって大爆笑したことがありました。エリザベス艦長の性格とかしゃべり方とかがですね、友人に瓜二つというかそのものというか、同一存在というか、もうほんとーにそっくりだったんですよ。あ、見た目は全然似てませんけど。

で、その頃に書きかけて、ほったらかしになっていた文章なんですが。その後はるかちゃんの暴走により、当初の予定から二次創作のストーリーラインが大きく方向転換、設定が浮き上がってしまっていたものを、今回苦し紛れに発掘してみました。自分的には気に入ってたりするので、現状に合わせて書き換えるというのはいまいちな気がして、路線変更はあえてしていません。

他のストーリーとは、設定うまく噛み合わなくなって完全に単発ですが、ま、特番ということで。
ひとつよろしくお願い致します。 

 

***   議会開放前夜   ***

 

夜間シフトに切り替わって、照明が落ちた夜明けの船に、その年齢を感じさせない堂々たる靴音が響いている。政治家に転身して久しい彼だったが、軍人の頃の習慣はその鍛え上げられた身体から抜けることなく、日常生活の中でゆったりと散歩を楽しむ時でさえ、常にその姿勢は乱れる事が無い。

ジョージ・タフト、元地球大統領。

そういうところは直さないと、印象がお堅くて駄目よ、と孫娘に言われたことを思い出して、少しは肩の力を抜いてみるのだが、いまひとつしっくりこないのは仕方がないだろう。

その孫娘のために、地位も名誉も全て投げ打って、火星の海に潜む海賊船紛いの独立軍に身を寄せている彼は、艦長室の前までたどり着いて足を止めた。そして、もう一度肩の力を抜こうと努力してみたが、それはあまり成功したとは言えなかった。

「エリザベス艦長、私だ。お呼びだそうだが。」
「ああ、待ってたよ。」
インターホンに向かって声をかけると、即座に答えが返って扉が開く。他の個室よりもゆったりした間取りの、しかしこの手の船の艦長室に有りがちな大仰さのない、むしろ機能的にすっきりしたその部屋に、彼は足を踏み入れた。

「私に話とは、何かな。」
「ああ、よく来てくれた。とりあえず座ってくつろいどくれ。秘蔵の酒を開けるから。」
「…海賊行為の、戦利品を?」
苦々しいタフトの言葉を、エリザベスはからからと笑い飛ばした。
「パパ・ジョージにそんなケチなもの飲ませやしないよ。私の私物さ。地球産のブランデーなんてどうだい?」
「…いや、済まない。頂こうか。」

軽い自己嫌悪に居心地の悪さを感じながら、タフトは勧められた椅子に腰を下ろした。今でこそこの火星独立軍の一員であるエリザベス・リアティは、かつて、地球総軍で名を馳せた名艦長であり、その戦況を読み解く確かな眼と肝の座った豪快さとは、現在もなお健在のようだった。

「単刀直入に行こう。そろそろ一仕事して貰いたいと、思ってるんだがね。」
予想通りの艦長の言葉に、ジョージ・タフトは即座に頷いて見せた。実のところ、艦長からの呼び出しがあった時点で、内容の見当はついていたのだ。

夜明けの船の置かれた状況は、日に日に悪化しつつあった。都市船への入出港のたびの激戦となり、そのダメージを回復し切れないまま、次の戦闘に突入してしまう。たった一隻であることのメリットを最大限に生かして戦い抜いてきた夜明けの船だったが、それはまた疑う余地も無く、致命的なウィークポイントでもあった。これまでその事実が表面化しなかったことの方が、よほど奇跡的だと考えているのはタフトだけではない筈だった。

「確かに厄介者をいつまでも遊ばせておくのも、示しがつかないだろう。今の私の言葉にどれ程の説得力があるのかは心許ないが、外交交渉の足しぐらいにはなるだろうからな。」
ジョージ・タフトの言葉に、エリザベス艦長は意味ありげな視線を投げ掛けた。グラスをもてあそびながら、探るように口を開く。

「普通はそう考えるだろうね。だが貴殿に依頼したいのは、もっと奇抜な任務なんだ、大変申し訳ないが。」
「奇抜?」
「そう、全く奇抜としかいいようがない。よくもこんなことを考えついたもんだ。軍の飯を喰った事のある人間には、絶対に辿り着けない発想だね。」
「…一体、私に何をしろと?」
「陸戦隊の指揮を取り、火星議会の解放を勝ち取って頂けないだろうか。」

その言葉が理解できるまでに、さしもの歴戦の勇者にも数瞬の空白が必要だった。そしてその意味を把握した瞬間、彼は思わず足を踏み鳴らして立ち上がっていた。
「それを、この私に言うのか! 私はかつての戦友を敵に回し、戦うようなっ……。」
感情に任せてそこまで言い放ってしまってから、タフトははっとして口をつぐんだ。エリザベス艦長は何も言わずに、グラスの酒をなめている。だが、自分が言ってしまった言葉は、この船で、そしてエリザベスの前では決して口に出してはならない内容だった。

「…すまない、失言だった。政治家に有るまじき失態だ。」
「別に、いいさ。ここは演説台じゃないし、あんたも今のところは、政治家と言うわけじゃあない。」
一方のエリザベスは、まるでタフトの反応が予想どおりだとでも言いた気に、落ち着き払っている。そしてふと、その口元に静かな笑みを浮かべて、こう付け加えた。
「個人的には、パパ・ジョージが少しも変わっていなくて、嬉しいぐらいさ。」

その穏やかな言葉が、タフトの内側にも冷静さを甦らせた。変わっていないのは、エリザベスの方だと考えながら、元大統領は必死に状況把握に思考を巡らせた。
「…最初からそのつもりで、私をこの船に連れて来たのか。」
「まあ、そう言われるだろうとは思ったよ。でも残念ながらそれは違う。エノラをこの船まで連れて来ちまったのは、むしろ成り行きに近い。それについては、きちんと詫びをしなけりゃと、ずっと考えてたんだけどね。」
「いや、あの娘にとっては、この船に来たことが、大きくプラスになったと思っているよ。」

タフトはふうと大きく息をつくと、立ち上がったままの自分に今更ながら気が付いて、ゆっくりと腰を下ろした。エノラは、この夜明けの船にすっかり溶け込んで、自ら積極的に艦内の業務に手を出して、以前よりもずっと生き生きとしている程だ。

「…ひとつ確認しておきたい。これは誰の発案だ? あの、ヤガミという男か。」
エリザベスは唇を歪めて皮肉な笑みを浮かべた。
「なるほど、こんな陰険な作戦はいかにもヤガミが考え付きそうだ。だが今回は違うね。」
「では誰がこんなことを。」
「これは、はるかの提案だ。」
「彼女が?」
はるかと名乗る、RB希望号のパイロット。彼女の存在もまた、この夜明けの船が抱え込んでいる謎の一つだった。

現実離れした戦闘力で夜明けの船の勝利を支える希望号のパイロットが、元太陽系総軍の捕虜であり、しかも若い女性であるという噂が、地球軍の内部にすらじわじわと広がっていたのをタフトは知っている。
だがそんなものは、戦場ではよくある敵への恐怖が産み出す流言飛語の一種だと、夜明けの船にやってくる以前には考えていたのだ。だが、しかし。

実際にこの船にやって来て、最も驚いたのは彼女との遭遇であろうと、今でも彼は考えていた。自分の孫娘と、年頃も外見もさしたる変わりは無い。ましてやそのエノラとも親しく、仲良く雑談に興じる微笑ましい光景など見てしまってからは、その軍人とすら思えない日常のはるかの姿と、希望号が弾き出す戦争の常識を大きく逸脱した撃墜記録とは、全く相容れないものでしかなかった。

「あんたに頼むのが、一番被害が少ないはずだと抜かしやがった。味方にも、地球軍にも、そして都市船側にも。いい所を突いてるだろう。」
タフトはぎろりとエリザベスを睨みつけた。だがかつて歴戦の兵どもを震え上がらせたその眼光も、エリザベスには通じなかったらしい。涼しい顔で元上官に真っ直ぐに視線を返し、そして言葉を続けた。

「確かに火星への派兵を決定した本人が、火星反乱軍の戦闘指揮なんぞ執っていたとしたら、そんなものは情報撹乱だと判断されるぐらい荒唐無稽な話だ。しかも、あんたは今でも、太陽系総軍の伝説的英雄でもある。あんたを敵に回したくない将兵はいくらでもいるだろう。相手側の混乱と戦意喪失の効果だけでも、こちらに勝機が回ってくるというもんだね。」
「都市船内でのドンパチは、本来なら避けたいところだ。しかしこの状況じゃ、さすがにそうも言っていられない。補給はますます厳しくなるし、夜明けの船の位置情報もかなり正確に掌握されつつある。だがそうは言っても、ここが正念場であるのは、あちらも同じだ。火星の海に、これ以上の宙戦戦力は降ろせまいよ。」
「…私が断ったらどうする。」
「あの小娘が、何て言ったと思う? それならそれでもいいと言いやがった。無理強いはしたくないと。もし本人が本当の意味で望まないのなら、どの道この作戦は成功しない、とね。それだけじゃない。自分も陸戦隊として同行してもいいとまで言っている。あんたに、命を預けると。」
「確かに飛行隊員としての彼女の能力は評価する。だが、陸戦隊とは別だ。」
「…あの娘はスカウトの経験があるらしいね。」
「スカウト? 戦車随伴歩兵のことか?」
「カオリは、いい陸戦隊員だろう。彼女が太鼓判を押した。はるかとクリサリスが同行するなら、成功しない作戦は無いと。」

タフト元大統領は自分の主張の不利をひしひしと感じながら、むっつりと不機嫌に口元を引き結んで、苦し紛れな言い訳を捻り出した
「私は都市船議会の警備態勢など、説明されたことはない。」
「だが、議会場に案内ぐらいはされてる筈だ。火星首都の議会場なんざ、マワスプにとっては、自分たちの歴史と権力の象徴のようなものだ。あれを地球大統領に誇示するチャンスを、逃したりはしないだろうさ。」

確かに、エリザベスの指摘したのは事実そのものであり、否定のしようもなかった。自分たちの財力を誇示しようとするような、不必要に華美に飾り付けられた建物と、対象的にお粗末な警備システムの案内を受けた記憶をたどりながら、自分が無意識に、その攻略計画を練り始めたのに気が付いて、タフトははっと我に返った。
そのタフトの内心を見透かしたとでも言うように、エリザベスがにやりと、意地の悪い笑みを浮かべる。
「軍人なんざ、因果な商売だね。」

「…では、私の質問に答えてもらえないか。」
「どうぞ、何なりと。」
「あのはるかという女性は、太陽系総軍の人間とはとても思えない。何故あんな女性が、フルサイボーグとして軍の制服を着ているのだ。」
「確かにあたしも、あの娘が軍人だとは思えないね。だが、彼女がどういう経緯でサイボーグになって、総軍の制服を着ているのかはあたしも知らない。知っているのは、ヤガミだけだ。」
「…またあの男か。この船に乗って、何らかの疑問を追っていくと、全ての謎があの男へと辿り付く。だが私には、あの男が信用できない。」
「そうかもしれないね。他者の信用を得るのは、はるかの担当だ。そして彼女は、信頼に足る人物だと思わないか?」
「その彼女自身も騙されているのではないかと聞いているのだ、艦長。」

「正直に言ちっまうと、最初はあたしもそう思ってたのさ。」
「だが、今は違うと? これまで火星に派遣された戦力を、この船はたった一隻で喰らい尽くした。銀河を揺るがした大乱の両側の勢力を敵に回してだ。これは一体どんな魔法なんだね、エリザベス。」
「お望みなら、今度飛行隊の戦闘記録分析をお見せしましょう、閣下。不思議なものが見られる。信じ難いことこの上ない。」

「ヤガミという男は、目的のためには手段を選ばない、そういう男だ。それは確かだね。はるかが連れて来られたときには、どうしてあんな女の子が必要なのか、理解に苦しんだのも本当だ。だがあれは、また別の意味で化け物なんだろうと、今は思ってる。」
「陸戦に入れて使ってみりゃ、あんたには分かると思うね。艦隊戦であれ白兵戦であれ、戦闘ってのは最後にはセンスだろう? 敵を倒し、生き残るための、生き物としての勘だ。」
「彼女にはそれが備わっていると?」
「あの娘は、眠っているんだ、普段はね。だが必要とされるならば、目を覚ます。一たび目覚めたら、それは普段のあの娘とは、まるで違う生き物なんだよ。」
タフトは、自分の記憶の中にあるはるかの姿と、エリザベスの語る何者かとの間に、あまりにも大きなギャップを感じて、眉をひそめた。これが外ならぬエリザベス艦長の言でなければ、世迷い言と一蹴してしまったかもしれない。しかし、目前のエリザベスは、常に無く、己の内側に沈み込むような表情で、言葉を続けた。

「だが出来ることなら、眠らせておいてやりたいんだ。私達は普段のあの娘を知っている。あの無邪気で屈託の無い笑顔は、小カトーやあんたんとこのエノラといい勝負だろう。あれが、嘘だとは思わない。だがね…彼女はそれだけの存在じゃない。彼女が持ってるのは、もっと、恐ろしいものなのかもしれないと思うよ。あれが持っているのは、運命を捻じ曲げる力だ。」
「エリザベス・リアティに、そこまで言わせる程の人物なのか。」

エリザベス艦長は直ぐにはその言葉に答えず、珍しくも沈黙を守っていた。それから、まるで独り言にように、ぽつりと呟いた。
「死んでゆくべきものを、生き残らせる。いや、既に死者であるものを甦らせるような、そんな力なんじゃないかと、思うんだがね。」

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