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2009年1月12日 (月)

ぐっどすぴーど

 

 

***   フィギュア・レース 1   ***

 

夜明けの船 艦内レクリエーション
 
RBスピードレース
 

1.スタートはハンガーから。
パイロットはスタートラインから駆け足、プリフライトチェック、RB搭乗、エンジンスタートで発進する。
 

2.コースはMAKIが設定。
但し、コースは複数MAPからランダムに選択され、RB搭乗時にパイロットに提示される。
 

3.コース内の規定ポイント(センサー設置)を必ず通過する。これに失敗すると失格。
コースのバリエーションによって、デコイ、障害物、規定行動、海流乱流、海底注意、流氷注意などの条件有り。

 

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普段なら関係者しか立ち入らないハンガーのあちらこちらで、異様な程の人数が動き回っている光景に、ヤガミは何度目かになるため息をついた。レースのスタートを待って、パイロットと担当整備班が待機しているハンガー中央のスペースは、辛うじて立ち入り禁止の措置が取られ空間が確保されている。だが、それをぐるりと取り囲む場所には、パーティ会場もかくやというほどの人間がごった返していた。

飛行隊長権限を振りかざして追い払う前に、エリザベス艦長の許可を取り付けられてしまったのでは、仕方がない。一瞬、はるかの根回しかと疑ってしまったヤガミだが、本人も目を丸くして、人影に埋め尽くされたハンガーを眺めているあたり、はるかも知らなかったということなのだろう。

はるかの提案したRBのスピードレースに、ヤガミが上手く口実を付けて許可を出せないでいるうちに、いつの間にやら、話は思わぬ方向に転がってしまっていた。つまり、ヤガミとはるかが、今後ともレースを続けられるかどうかを賭けて、一対一の勝負をすることになってしまったのだ。何処でどう間違ったのか、ヤガミにすら良く分からない状況に困惑している隙を突くように、夜明けの船の艦内に情報はすっかり蔓延していた。

大方、お祭り好きの陸戦隊員あたりが震源地だろうとのヤガミの予想を証明するかのように、集まった人々の間を縫うようにして、この喧噪にぴったりはまり過ぎの赤い髪の頭が、ピンク色の頭を引き連れ嬉々としてうろついている。タキガワに至っては、自分が参加出来ない腹いせも含まれているのかもしれない。

こんな事になるなら、さっさとはるかに許可を出しておくべきだったと、心底後悔したヤガミだが、こうも話が広がってしまっては、おいそれと引き下がることも出来ない。当のはるかも、どちらかと言うと事態のあまりの暴走ぶりに付いて行かれずに、驚いているような表情である。きょろきょろと落ち着かなげなはるかをちらりと見てから、ヤガミは腕時計に目をやり、スタートの時間が近いことを確かめた。

まるでその仕草が合図になったかのように、スタート直前のハンガーは、徐々にその喧噪を収めて静かになっていった。スタート時に騒ぐようなら、即座に中止、これだけは譲らないとヤガミが主張した通達は、しっかり浸透しているようだ。私語を禁じられて静まったハンガーは、しかし逆に、観客達の熱気が音も無く溢れかえるような緊張感が満ちている。これも裏目に出たかと心配するヤガミの横で、はるかがすらりと立ち上がった。

「派手なスタートをかけたりしないで、時間になったら勝手に行動開始。もうちょっと、お祭りらしくてもいいのに。」
「お祭りじゃない。余計なギャラリーは勝手に集まっただけで、あくまでも演習の一環だ。」
「はいはい。条件確認するけど、私が勝ったら、今後もレース形式の演習を組んでもいいのよね。」
「……こんな乱痴気騒ぎは、もう御免被るぞ。」
「うーん、私もこんな大掛かりになるなんて思わなかった。でも、継続して開催って決まったら、こんなにはならないと思うけど。」

やや声を潜めてはいるものの、特に堅くなった様子も無いはるかの態度に、ヤガミは内心ほっとした。実のところ、自分でもこんなレースに、しかも恐らくは、手加減無しで挑んでくるであろうはるかを相手に挑戦出来るという機会を、ヤガミ自身も楽しんでいたのだ。とはいえ、散々捏ねた後で、そうは言い出せないでいるヤガミは、ふと肝心なことに気が付いて、言葉を返した。

「そういえば、俺が勝った場合の賞品はどうなるんだ。」
「あれ? 決めてなかったっけ。えーと、そうしたら…。」
「いや、後にするか。そろそろ時間だ。」
「なんか、ちょっと、それ、無理難題を言われそうな気がするんですけど!」
「だったら、お前が勝てばいいだろう。」

唇の端に笑みを浮かべる余裕が、ヤガミにも戻ってきていた。こちらも笑みを含んだ楽しげな膨れっ面を見せたはるかが、唐突にくるりと背を向ける。そのまま、両腕をぐうっと天井へ向けて、猫のように伸びをしているはるかを横目で見ながら、ヤガミは同時に、最近は本当に珍しくなったアナログ時計の秒針を追っていた。細い針が、精確に時を刻みながら、競り上がってくる。それが頂点を指し示した瞬間、音も無く流れるように、傍らのはるかが真っ直ぐRBへ向かって走り出す。ほんの一拍の空白をわざと取ってから、ヤガミも自機が口を開けて待っているコックピットを目指して、走り出した。

 

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