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2010年3月10日 (水)

比翼の鳥5

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 パートナーシップ 18

 

 

***   パートナーシップ 19   ***

 

一方、補給着艦のために夜明けの船を目指すドランジは、本当に速度記録が樹立出来るのではないかという凄まじい加速をRBに要求しながら、背後に残して来た仲間達を示すマーカーの動きを、険しい眼差しでじっと睨み据えていた。シールドの無い後方からのデータとはいえ、戦闘中のRBの動きを、距離の離れていく同じRBのトポロジーレーダーに捉えようとするのには限界がある。だが、その限られた情報が映し出す中にも、ライラ達が最後の敵母艦を攻めあぐねている様子が、ありありとにじみ出ていた。その苦しい戦況を外から眺めていなくてならないもどかしさに、ドランジは思わず、ぎりりと音を立てて奥歯を噛み締めた。

これまでの戦法のように、常時RBの全機を投入するようなシナリオにおいては、飛行隊のパイロットが戦闘中に頭を冷やす機会というのはほとんどない。いったん出撃してしまえば、何等かの形で戦闘が終了するまでの間、我に返ってしまう暇すらもないということは、戦闘の興奮による躁状態のまま集中力を高めて行動を続けられるという有利さもあるが、逆にその興奮に流され、冷静な判断力を失いがちであるという弱点も存在する。

夜明けの船の飛行隊が、そんな過度の興奮状態に足元を掬われることもなく、ここまで無我夢中の戦闘を勝ち抜いて来れたのは、やはり、常に冷徹な程にクリアな判断力を保ち続ける、ライラの指揮によるところが大きかった。戦局の流動という、自分の命をも左右する状況の変化に対して、その場所の熱に全く巻き込まれる事なく、まるで何処か遠い高みから、戦いを見極めているかのように澱みの無いライラの指揮ぶりは、軍歴の長いドランジから見ても、一目置かざるを得ないレベルに達している。

しかし今回の作戦のように、いつでもライラが戦場に居てくれる訳ではなく、その空白をチームワークによって埋めようとする投入のローテーションを構築したからには、飛行隊員の一人ひとりが、自分に課せられた領域をどうしたら維持することが出来るのか、それを自ら判断しなくてはならなかった。そうやって飛行隊の誰もが、戦闘全体の中で自分の果たすべき責務を自覚しているという認識の密度こそが、この作戦の要であると言っても過言ではないだろう。ライラの負担を少しでも少なくしようと考えた末の挑戦ではあったが、結果として夜明けの船の飛行隊は、当初艦内首脳部が目論んでいた以上の戦闘力のレベルアップを果たしていた。

にも拘らず、たった一隻の生き残りに対して、タキガワやライラがこれ程手を焼いているのである。如何に高耐久力を誇る戦闘母艦といえども、別段攻撃力が桁違いに高いという訳ではない。むしろ、水雷を出し惜しみしているかのようにムラのある攻撃そのものは、単純な戦闘力に換算すれば、逆に小さな数字になって表されることになる筈なのである。やはり戦いはスペックではないと、ドランジは自らの持論を、苦々しい形で再認識せざるを得なかった。

RB隊が突出の危険を冒してでも、盾の艦隊に一撃を叩き込んだ作戦そのものが失敗だったとは、まだ言えないが、このままのらりくらりとこの母艦に振り回されれば、夜明けの船は飛行隊と、そして希望号という最大の武器を封じられたのと同じことである。かといってこんな老獪な操船をみせる艦を泳がせては、厄介な事態に陥るであろうことは疑いの余地も無かった。戦場を離れて、冷静な状況判断が出来る自分こそが、この事態の突破口を見つけなければならない、その責任感はずしりと重くドランジの肩に伸し掛かっていたが、焦る気持ちに反して、思考は手応えの無いままに空転し続けていた。

夜明けの船よりもやや深度を保ったまま、驚異的な速度で飛ばして来たドランジは、その思考の堂々巡りを振り払うかのように短く腹から息を吐くと、RBの操縦へと意識を引き戻した。急ブレーキ替わりの強引なインメルマン旋回で、RBの機体を投げ上げるかのように上昇させながら、夜明けの船へと接近させる。ローテーションによって次々に飛行隊の交代を実行する今回のような戦術では、ある程度以上の乱戦の最中にRBの着艦を実行しなくてはならない場面の増加は当然予想され、その対処のために、飛行隊員の全員がもう一度、最短時間での着艦という基本的操縦の再訓練にも取り組んでいた。

様々に条件が異なるRBの着艦に関しては、やはり経験値がものを言うらしい。飛行隊の面々の中で最も艦船への肉薄が得意なのは、やはりドランジであり、それを懸命にタキガワが追い縋って競争を挑んでいたのに較べて、意外なことにライラが着艦を苦手としているということも、この訓練を通じて始めてドランジが気が付いたことのひとつだった。見事な程に教科書どおりの指揮手腕や、桁外れの戦闘能力を見せるライラであろうとも、やはり苦手は紛れも無く存在するのだ。

そのドランジの不安をあざ笑うかのように、着艦直前のレーダーに、敵艦隊本体が夜明けの船を目指して加速行動に入ったことが映し出される。こちらも悠然と一直線に飛ばしている夜明けの船に動きを合わせ、急激な減速からRBを擦り寄せて着艦という、それなり高度な操縦を難無くこなしながら、ドランジは懸命に、ライラ達の反応を把握しようとデータに目を走らせ続けた。戦場の様子を肌で感じ取ることが出来るRBに比べ、着艦して夜明けの船に飲み込まれ、リアルタイムの情報から切り離されてしまうと、まるで戦闘がその分遠のいてしまったとでもいうように、現実感は乏しいものになってしまう。再度の出撃を果たすまでの間、出来る限り情報の空白を作りたくは無かったからだ。

恐らくは意図的にゆっくりと進んでいた敵本体が急激に加速すれば、RB隊は夜明けの船との間に敵艦隊を挟んで、取り残されたような位置取りになってしまうということも、認めざるを得ないだろう。敵戦力の分断とその撃破という大きな任務をRB隊がこなしつつあるのは確かな事実だが、その代償として極めて難しい課題を突き付けられていることになる。レーダーの中の飛行隊の動きを見る限り、ライラ達はまだ、敵本体の加速行動に気が付いていないのかもしれなかった。ドランジは後ろ髪引かれる思いを断ち切るようにして、火星の海から夜明けの船の艦内へとRBを滑り込ませた。

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