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2010年5月20日 (木)

森林の日

 

 

***   感謝祭のますかれーど45  ***

 

どちらも分かりやすく赤面したまま、それでも、そんな自分の気持ちそのものを持て余してでもいるかのような、言い訳めいた言葉の応酬を続ける二人に、ヤガミは苦笑をかみ殺しながら仲裁に入った。しかし、笑い交じりのヤガミの執り成しに、コースケとジェドは揃って勢いよくヤガミを振り返ると、如何にも不満そうに唇を尖らせた。端から見れば微笑ましい限りの舌戦ではあったが、本人達にとっては、少年のプライドに係わる重大な攻防戦なのだろう。ヤガミは再びわざとらしい咳払いをしながら、込み上げてくる笑いの発作を苦労して押し戻しつつ、何とか口を開いた。

「…研究活動に、色んなメンバーが参加出来るというのは、大事なことだな。どんなことでも、物事には様々な立場から見た視点の違いが存在する。見方が違えば、それに対する印象も違ってくるだろう。考え方や能力の違う同士が、ひとつのことをやり遂げようとするのは、難しい面もあるだろうが、そういう違いを乗り越えてこそ見えてくるものもある。この研究が、そんな努力によって支えられ成し遂げられたのなら、それは重要な研究成果のひとつだろう。こういった展示の中に書き表されることは、無いのだとしてもだ。」

声に幾らか笑いの気配を含んではいるものの、内容としては至って真摯なヤガミの言葉を聞いて、思わず静かになった二人は、そのままどちらからともなく互いに顔を見合わせた。彼らの年頃で、自分が誰かに好意を抱いているなどということ、つまりは”弱点”を、素直に認めるのはなかなかに勇気のいることかもしれない。それでもやはり、この研究調査というイベントを通して、彼ら自身もまた、そんな気持ちを新たにした自覚があるというのも、やはり本当なのだろう。微妙に赤い顔をしたまま、互いの顔とヤガミの表情との間で視線を彷徨わせていた二人だったが、やがてジェドが意を決したように、ぽつりと呟いた。

「……あの、さっきの、対話の努力っていう奴とか?」
「ああ、そうだな。そういうことだ。」
「でもさ、ちょ、ちょっと、難しい時もあるよな、やっぱ。」
「まあそうだな。何の苦労も無く簡単に手に入るようなものは、所詮その程度の価値しかないものだ。この展示発表を作り上げるのは、大変だったろう。だからこそ、大切なものだ、そうじゃないのか。」
唇の片方の端だけを吊り上げたヤガミの、皮肉げで薄い笑みを見て、ジェドとコースケが再び顔を見合わせた。その二人の視線が、はっとしたように吸い寄せられ、ヤガミを素通りしてその背後へと集中する。思わず首を傾げそうになったヤガミの後ろから、明るい声が響いた。

「なーに、またヤガミはお説教なの?」
成程、子供達の視線はこれに反応していたのかと納得しつつ、ヤガミは急いで背後を振り返った。恐らくは背後から忍び寄ろうとでもしていたところを、子供達に見つかってしまったとでもいうことなのだろう。ぺろりと舌を出しつつ、それこそ子供のような笑顔を浮かべたはるかが、足音も無く近付いて来る。そのまま、風のように涼やかに歩みを進めて、はるかはヤガミの隣へと滑り込んだ。
「詰まんないお説教ばかりしてると、嫌われちゃうわよー。」
「詰まんなくなんかないよ!」

茶化すような口調のはるかの言葉に、しかしヤガミが返答をよりもさらに速く、反射的なコースケの言葉が割り込んだ。唐突でストレートなコースケの物言いに、今度ははるかが目を丸くする。横目ではるかの表情を伺っていたヤガミの視界の片隅で、はるかの顔が、ふわりと優しい笑みを作った。そのまま頭を巡らせて、嬉しそうな笑顔でヤガミの方を振り返るはるかの動きを捉えながらも、ヤガミはそれに向かって振り返るべきなのかどうか、一瞬真剣に葛藤してしまった。

「あらー、コースケ君はお説教好きだったなんて。」
「えっ、お説教は、その、聞かなくて済むならあれだけど…そーじゃなくてさ、ヤガミの話、詰まんなくなんてないよ!」
「へえー、そう。じゃあ今日は凄く珍しい当たりの日なのね、きっと。」
「……説教の内容も言い方も、相手によって変わるだろう。箸にも棒にもかからないようなケアレスミスを繰り返す注意力の無い奴には、厳しい態度で臨まないと頭に入らない。詰まらない説教をたびたび喰らっていると思うのなら、それは当人に問題があるんだ。」
「ほらねー、こういう意地悪を言うのよー。」
「でもさ、厳しいことを言ったり、悪い時にはちゃんと怒る人がさ、褒めてくれた時はすげー嬉しいよ。」

コースケもジェドも、今自分達が何を感じているのかということを、どうにかして言葉として表現しようと、懸命に頭を捻っている様子を眺めながら、はるかはもう一度、くすりと嬉しそうな笑いを浮かべた。
「どうも男子はみんな、ヤガミの味方っぽいなー。いいもん、それならこっちは、女子呼んじゃうから。おーい、えるむさんも、肝心のこの発表を見せてもらわなくちゃ。みんなも一緒に見よう!」
他の展示の様子を、三々五々と散らばりながら見学していた一同が、一体何事かという顔をしながら、ヤガミ達に向かって集まってくる。急に観客が増えたため、顔を強ばらせているジェドに、ヤガミは低い声で耳打ちを囁いた。

「…さっきの通りやればいいんだ。多少人数が増えたからといって、緊張することはない。なに、レンコンがいくらか増えたとでも思えば。」
「そーだよ、他の展示より俺達のが全然凄いし、それにジェドの説明だって、タウロ先生とあんなに練習頑張ってたんだしさー。」
「う、うん。」
「よーし、みんな集まったかな。じゃあ改めて、ジェドに解説お願いしまーす。」

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