八代悟真堂河童祭
「…プラスチックですか、信管や起爆装置類は。」
「目視した限りでは確認出来ていない。設置途中で放置したような状態だな。」
「パネルに張り付けてるってことは、大した量じゃねーんだよな。」
「発見出来ている分に限って言うのならそうだ。指先程度の大きさで数ヶ所だけだな。」
「ずいぶんと中途半端な話だぜ。」
「これまでの用意周到な計画から考えると、確かに行き当たりばったりという印象ではありますね。」
安全な隣のテントへと向かう狭い通路の仕掛けを、広幡が全く知らないと言うのなら、展示パネルにこっそりと張り付けられた質の悪い悪戯は、退路を断つためのトラップである可能性も高い。とはいえ、仕組みも完全な設置場所も情報が無いのでは、対処は非常に難しくなるだろうと思われた。第二の爆弾を解除をしても、第三の爆弾が何処に隠されているのかも不明なまま、さらに退路に不確定要素が存在するというのは、判断の極めて厳しいところである。
「最初の爆弾が現状でもまだ爆発せず、逃走した男が確保出来ていないのなら、包囲網に引っ掛かりそうになって起爆させる可能性も高いだろう。最初の起爆タイミングの予測が難しいとなると、準備にどの程度時間が掛けられるのか何とも言えんのだが。」
「どうすんだよ、おっさん。どうせやるなら迷ってる時間はねーよな。」
早口に情報交換を進めているWD兵達の会話を聞きながら、黙って考え込んでいたヤガミに、不意に切り込むような唐突さで、柊星が言葉を向けた。それを合図にしたかのように、全員の視線がヤガミへと集中する。柊星に小言を付け加えることもしないままの王島も、この場では一応責任者である筈のなつきでさえ、自分の言葉を待っている状態に、ヤガミは無表情のまま指揮官としての命を下した。
「……解除に挑戦するのなら、確かに時間は無い。確定仕切れない情報は後回しだ。だがどの道、一度は向こうのテントへ説明に戻らないと、悪ガキ共がのこのこと飛び入りしかねない。事情の説明がてら、途中で広幡に現状を確認させよう。」
「そうですな。ではなつきさんとヤガミさん、私が彼を連れて一度戻りましょう。出来るだけ急いでUターンしてくる。」
「りょーかい、んじゃ俺達は居残って、先にパネル2、3枚引っ剥がしとくわ。遅いと先に行動するからな。」
「ま、待てよ、なんで爆弾は放っておいて全員で逃げないんだ。」
感情の籠もらないヤガミの言葉に、質問すら差し挟むことなく、そのまま作戦準備に動き出そうとする一同を、悲鳴のような広幡の言葉が引き留めた。一度は起爆装置の解除に同行すると口走っていた広幡だったが、次のテントへの通路にまで、全く知らされていなかった仕掛けが施されていると聞いて、自分の情報に自信が持てなくなってきたらしい。追い詰められたような雰囲気で、感情的な上滑りの声が続く。
「こんなに不確定な情報が多いのに、無理に爆弾解除なんかすることなんかないじゃないか。奥のテントに退避してれば、二番目が爆発してもきっと炎が燃え広がるより先に逃げられる。」
浅い呼吸に肩を上下させながら、広幡は一同の顔に視線を投げ掛けた。だが、それに返されたのは、静かな沈黙だけだった。手厳しい言葉であっても、これまで曲がりなりにもずっと、彼と会話し続けてきた柊星までもが無言の視線を返すのに、広幡は掠れる声で呟いた。
「だって、みんな助かるんだ…。」
「みんなって誰だ、広幡。」
「…へ?」
思い切り間の抜けた声で聞き返す広幡に、鈍く光るような視線を向けた柊星が、くぐもった低い声で言葉を続けた。
「まあ、俺達は助かるだろうぜ。そんでホントにみんなが助かって、誰も傷つかないですむのか。」
「誰もって…。」
「…この満天星国がここまで来るのに、どんだけの人間がどれ程苦労したと思ってる。てめぇ今更何にも無かったように元通りの昔に戻れるとでも、本気で信じてんのか。誰だかにほいほい乗せられて莫迦な真似してんのならともかく、てめぇが本気でこの国に傷をつけるつもりなら、それは俺の敵だ。容赦はしねぇぞ。」
その声は囁くように静かだったが、それは逆に、最大限の自制心を持って押し込められたことを物語るかのように、刺さるような鋭利さを持って耳に響いた。そしてそのままぷつりと言葉を切ると、柊星はくるりと身を翻し、広幡を放置したまま順路を仕切るパネルの構造を確認し始めた。取り残された形になった広幡が、まるで見捨てられた子供のように情けない表情をしているのを見かねたように、瑞穂が続けて呟いた。
「ああ、スイッチが入ったら、柊星と会話は通じないと思うよ。」
「スイッチ?」
「そう、戦闘態勢のね。あんなでも、それだけ真剣だということさ。命を掛けるに値する価値があるから、それを実行するだけのことだ。」
ひょいと肩を竦めてみせた瑞穂は、まるで柊星のその沈黙を補おうとするかのように、一同に向かって言葉を引き継いだ。
「退路の確保が出来次第、こちらの判断でアクションを起こします。一応、解除をしくじらない程度の自信はありますが。」
「…了解した。」
「頼むぞ、瑞穂。」
「御武運を!」
短い言葉を交わした彼らが、次々と行動を起こすのに付いて行かれず、おろおろと視線を彷徨わせた広幡の肩を、王島が長い腕を伸ばしてぐいと掴んだ。
「情報提供には感謝する。瑞穂と柊星の安全を望んでくれたことにもだ。だが我々の作戦を邪魔するような言動は謹んで貰いたい。」
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