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2011年1月11日 (火)

信貴山初寅大法要

 

 

***   感謝祭のますかれーど85   ***

 

やしなはそう言いながら、自らの手で切り裂いた長方形の門を潜り抜け、積み上がったテント幕とパネルの残骸の山を身軽に飛び越えると、テントの中へと踏み込んで来た。展示作品の下の想定通りの場所へ、念入りに固まった状態で皆が身を寄せてるのを確認し、それ以外の場所にも素早く視線を走らせて、内部に被害が無いことをチェックし終えたやしなは、改めて一同へと振り返り、にこりと嬉しそうな笑みを作った。
「みんな、怪我は無かった?」
きりりと引き締まった雰囲気を常に身にまとうやしなではあったが、その整った顔立ちに優しい笑顔を浮かべると、印象は一瞬にしてまるで違ったものになる。華やかなハイ・バトルメードの制服に相応しいその笑みに、思わず子供達の間から、溜息とも歓声ともつかないおおーという声が上がった。とはいえ、そんな反応の意味にも気が付いているのかどうか、やしなはきびきびとした歩調で進みながら、子供達に向かって言葉を継いだ。

「私が拙いタイミングで見学なんて勧めたから、みんなには恐い想いをさせちゃったわね。」
「…え、そんな別に、恐くなんかなかったぜ。面白かったし、なー、みんな。」
「ええっと、うん、面白かったかも。」
「そうだよねー、みんなでちゃんと、幾つもミッション・クリア出来たしねー。」
「はるかはその傍迷惑な価値観を子供に教えたりするのは止めておくように。ヤガミさんにも大変ご迷惑をお掛け致しました。」
「えー、やしなちゃんてば、傍迷惑だなんてー。それに私にはご迷惑じゃないの?」
「……はる姉の場合は、絶対自分でトラブル引き寄せてるんだから、自業自得でしょ!」
「まあそういうことね。WD部隊の方々もお疲れ様でした。ご協力に心から感謝します。」

あっと言う間に戻ってきた姦しいやり合いを耳にして、微妙に脱力しながらも、ヤガミはゆっくりと腰を上げた。そんなヤガミの傍らで、やれやれと言いたげな雰囲気のWD兵達もまた立ち上がり、さらにその背後では、最後の緊張状態から解放された悪ガキ共が、息を吹き返したかのように元気を取り戻し始めた声が響いている。やしなが文字通り切り開いた脱出口に再び目をやったヤガミは、既に幾人かのバトルメード達が足許の瓦礫を取り除きつつ、切断部分周囲の強度確認作業を始めているのを見やって、今更ながらやしなの卒のない指揮振りに舌を巻いた。
「……ったく、ああやって笑ってっと詐欺な気がするぜ…。」
いつも通りの背中を丸めた姿勢でヤガミの傍らを通過しつつ、ぼそりとそんな呟きをもらした柊星は、そのままやしなとすれ違って、脱出口に向かってやる気の無さそうな足取りで近付いて行った。確かに、たった今自分の目前で微笑みを浮かべながら感謝の言葉を口にしている人物と、ついさっきテント幕を切り裂いたあの赤い刃の遣い手が同一人物だというのは、俄には信じがたいところである。だがヤガミは、テントの外から差し込む光を背に、最初に中を覗き込んだあの気配をもう一度思い出し、無意識の内に緊張の息を吸い込んだ。己の命を天秤の片側に賭けながら、武器を操る者の鋭利な空気、それはヤガミにとって余りにも馴染みのある同類の気配とも言えるものだった。それを一瞬で吹き払ったのは、たぶん、はるかの声だったのである。

「直ぐにあの山も片付けさせて、まずみんなから脱出出来るからね。」
「別にあれぐらいどけてもらわなくても、俺達簡単に乗り越えられちゃうよ。」
「そうねえ、でも女の子達もいるんだから、もう少しだけ待って上げて。」
「お、おう。そうだよな、俺達、エスコートだからさ。」
「あら、頼もしいナイト達ね。」
どちらかと言うと、女の子達よりは悪ガキ連の方が話し易いような雰囲気のやしなは、笑顔のままコースケに声を掛け終えると、改めてヤガミへと向き直った。
「…子供達の脱出後は、出来れば広幡さんを先にお願いしたいのですが、宜しいでしょうか。」

そう言いながらやしなは、賑やかさを取り戻しつつある子供達の一群から、再び自分で距離を取って、テントに背を預け一人取り残されたかのように座り込んでいる広幡に向かって、ちらりと視線を投げ掛けた。そのやしなの言葉を聞き、王島と瑞穂とが目配せを交わし合ったかと思うと、瑞穂は何も言わずにさり気なくその場を離れて、柊星の後を追って脱出口へと向かって歩き出し、王島はかちりと小さくヤガミに向かって頭を下げた。子供達の場合なら、このテントから一刻も早く脱出させることが最優先だが、広幡の場合、むしろテントから出ない方が安全と言えるかもしれないこともまた事実だった。その彼を先にと言うからには、恐らく外では既に、彼の安全を確保しつつ、この現場を離れるための対策が進められているのだろう。しかしこの先はあくまでも彼らの職務の領域であり、部外者であるヤガミにはこれ以上の干渉をする権利は無かった。不本意に巻き込まれた現在の状況ではあったが、この現場を共に乗り切ったWD部隊員達と、そして広幡とに対する思い入れを持て余しながらも、ヤガミは低く押し込めた声で返答を返した。

「…まあ、順当なところなんじゃないのか。はるかとセットにされている以上、後回しなのは仕方が無いだろう。」
「本当に申し訳ありません。こんなのと一緒に来て頂いているばっかりに、余分なお手数をお掛けしまして。」
「……え、ちょっと待って。それって私が悪いの? え?」
「だからー、諸悪の根源ははる姉って、いい加減自覚したら?」
「えー、そんなー、確かに後に残ってる方が絶対面白そうなんだけどー。」
「……反省の色が無いな。」

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