突発すけっち・京都旅行記念
「まあ、騒がしいこと」
「そうね、せっかち」
「ねえ」
宵闇に沈んでも目に白い、四角い舞台の傍らに屈み込んで、忙しなく機器を調整していた黒ずくめのスタッフは、傍らの女性が発した声に一瞬顔を上げた。影を縫うように身を屈めて動き回る作業員達とは対称的に、たったひとり光に照らされて静かに佇む姿は、この地に伝わる背の高い花の姿のように美しいが、常にその隣に並ぶ瓜二つの姿は、今は見当たらない。
にもかかわらず、目には見えない相手の、耳には聞こえない返答にきちんと間を取って、ぽつぽつと会話は続いていた。白装束の袖口から覗く、深紅の色を見せ付けるように、口元を覆いながらくつくつと笑う横顔に一瞬見惚れたものの、はたと我に返った彼は、首を竦めるようにして直ぐに自分の手元へと目を落とした。いつものことなのだ、いちいち驚いているようでは、この仕事は務まらない。
「ええ、勿論。分かっているでしょ?」
「私達は本来、表に出るべきではないんだけど」
「…あの子のためだもの」
「あの子と、あの子のお友達のために」
「吾が名は朱奈、各務真名衆の一羽にして、波の悪魔の受肉と謗られし赤の双姉妹」
「二人で一人」
「陰陽の」
「いざ」
「敵性を確認。レーザーを使用している。名前に青を持っている。名前に生物種を持っている。夜を見る猫妖精に包囲されている。んー、大きい。打撃を使用している」
「では、陽の沈む西の舞台より。人の描いた最も大きな形」
「人の足が踏み知め、星の表に刻んだ命の証」
「代々継がれ、人の世を支え」
「摂理の美に仕える吾が責において」
「暁の女神の衣は」
「十の賽」
「人の世の歴史」
「甦れ、原初の姿に」
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